苦労は人を優しく変える。 2003年3月17日
最近、自然公園へ来始めた車椅子の老人がいる。彼は私が以前住んでいた赤羽台の住人で、彼は私達のことを覚えていない。彼は金持ちで豪邸に住んでいた。
今から15年以上前、私の飼っていたオカメインコが逃げだしたことがあった。追いかけて行くと、彼の邸宅の広い庭へ逃げ込んだ。塀の内側で鳴き声が聞こえたので、玄関のブザーを押すと大柄な着物姿の彼が現れた。彼に中へ入れてくれと頼んだが、駄目だと拒否された。更に押し問答をしている内に庭のオカメインコは野良猫に捕まってしまった。私は塀を飛び越して逃げていく猫を追いかけたが救うことは出来なかった。
それから暫く彼のことを思い出すと腹が立った。それから、長い年月の間そのことは忘れていたが、彼と出会って思い出してしまった。
その冷たくて傲慢だった彼は脳梗塞で倒れ、ただの温厚な老人に変わっていた。付き添いの老妻は二度と歩けないと医師に宣告されたと話していた。彼は両脇の松葉杖を支えに必死に歩いていた。
「大丈夫です。きっと歩けるようになりますよ。」
と励ますと老人は嬉しそうな顔をした。
公園で出会った頃、付き添いの老妻も高慢な人であった。しかし、何度も会って言葉を交わすうちに彼女から嬉しそうに声をかけてくるようになった。先日、信号待ちをしている時、母が手を振っていたので見ると道路の向こうで彼女たちが大きく手を振っていた。
苦労は人を優しく変えるものらしい。
母へはオカメインコのことは何も話してない。温厚な老夫婦がそこにいる、その事実だけで十分である。
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