どら猫の死に場所は青空の下。 2003年5月14日
先日、雨に濡らした携帯は結局壊れてしまった。ドコモに持って行くと修理時間も費用もかかるから買い換えたが良いと薦められた。携帯は必須で、母は私が外出していても連絡が取れるので安心している。それですぐに新しいものに買い替えた。
新しい携帯は大画面でインターネットも開く。しかし、電話は月に2,3度しかかかって来ない。連絡は殆どメールになってしまった。携帯が登場した頃、いきなり路上で話し始める人に戸惑った。今やっとその光景に慣れたと思ったら、みんな携帯をパタンと開いてメールチェックをしている。時代の風景はすぐに変わってしまう。
散歩帰り桐ヶ丘生協で仏壇の花を買った。
それから桐ヶ丘都営団地を通り抜けて帰った。昭和30年代に作られた団地で殆どが4階建の小さな棟ばかりだ。昔は子供が溢れていたが今は老人ばかりになった。団地の公園は、生い茂る野草にペンキの剥げたベンチが埋もれている。建設から40年を経て、木々は見上げるような大木になった。5月の風にポプラの梢は揺れ、若葉をキラキラと光らせていた。
公園脇の林の中に駐輪場がある。団地は年寄りばかりで自転車の利用は殆どない。そこに最近、白黒のドラ猫が寝ている。毛並みの衰えた老猫で、もう長くはないだろう。姿から昔は可愛い猫だったと想像できる。時折、顔見知りの老人たちが、餌を置いて去って行く。老猫は面倒くさそうに立って、餌を少し食べ、再び横になる。
「大丈夫なの。」と、母が心配して声をかけると、老猫は私たちをじっと見上げた。毛並みはヨレヨレなのに、見上げた瞳は透き通っていて、まるで、山奥の湖のようだ。死期を間近に控えながら、この静けさを保つ瞳に畏敬の念を覚える。この助けを求めない動物の姿勢は好きだ。
ネコは死期が近づくと、気持ちの良い死に場所を探すが、この老猫もそうなのかもしれない。今は爽やかな5月。彼は実に良い季節に、良い死に場所を選んだ。やがて彼は、自分を嘆くことも無く一人で静かに死んで行くのだろう。
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