赤とんぼと巡礼の鐘の音。2005年7月27日
日本生命倫理学会の装丁絵が出来たので、9時過ぎに埼京線北赤羽駅まで学会の編集員Oさんに取りに来て貰った。
駅前広場で、Oさんは装丁絵を見て、素晴らしいと大変喜んでいた。絵かきはこの一瞬が嬉しい。古代遺跡のような建物のある密林の上に巨大なオレンジ色の卵が浮いている絵である。3回目の今回は違うものにしようと提案したが、学会の希望で卵を踏襲することになり、この絵になった。
次はバンコクのロックグループのCDカバーとポスターの絵に取りかかる。だが、仕事相手の責任者の名前も会社も知らない。そのあたり南国の人はアバウトである。私としては、最悪、描いた絵は手元に残るのでリスクは気にしていない。電話してくる担当の話ではCDは数万作るらしい。日本もアメリカも、すでにCDの時代は終わり、ネットダウロードの時代だが、あちらはまだCDが元気である。
台風一過、素晴らしい快晴。気温はぐんぐん上昇するが、乾いた風が強くさほど暑くない。しかし、自然公園は老人達も子供達も人影がなかった。
母は炎天下の遊歩道をいつものように杖を付き歩き始めた。母の杖につけた鐘の音が静かな公園に響く。この音は子供の頃聞いた巡礼の鐘の音に似ている。昔のことを思い出していると、ふいに、ガン検査の結果が頭を過ぎった。もし、ガン細胞が見つかったら、場所が腎臓なら何もせず温存。尿管の場合は進行の様子を観察して処置。そういうことになるかと漠然と考えていた。
前を行く母の後ろ姿を眺めると、すっかり小さくなったと寂しくなる。
若い頃、母は大柄で姿勢も良く同年輩の母親達の中では目立っていた。その母が今は背中が円くなり、ゆっくりゆっくりとしか歩けない。
いつもの3分の2程歩いた時、母は立ち止まり車椅子に乗ると言った。月火と散歩を休んだので疲れたのだと私は思った。しかし、疲れたのではなく、トイレに行きたくなったようだ。何となく私はホッとした。
古民家では隣接の財務局公舎の若い母親達が座敷で子供達を遊ばせていた。
母親達は亭主の仕事の話をしていた。生活に追われる私から見ると役人の世界は労働の厳しさがまるでない。彼女達の話の内容では、役人達はほとんど働かずに高給を貰っているようで、夢の世界の話を聞いているような気がした。
帰り路、手摺りの上に台風で羽を痛めた赤とんぼが休んでいた。日の光に真っ赤に輝くトンボを、母は「まー綺麗。」と暫く見とれていた。
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