真昼の幽霊。2005年7月28日
車椅子にクモが巣を張っていた。
1晩で張ったようだ。せっかく苦労して張った巣だが、車椅子を動かした。
そう言えば前の家に居る頃、出入り口の小道に、毎日、巣を張るクモがいた。学習してくれよと思いながら、毎日巣を壊していた。しかし、餌を取るのに都合の良い場所のようで、朝になると巣は張り直されていた。
母の車椅子と一緒に、エレベーターで下りる時、1階の隣にある8階のボタンを間違えて押してしまった。途中、8階で停止すると、すかさず閉まるのボタンを押した。しかし、すぐには反応せず、ドアは暫く開いたままだった。
「8階で待っている幽霊がお前にボタンを押させて、乗ってきたんだよ」と母は言った。真昼の怪談としては面白い。
昨日に続き、乾いた風が心地よく、暑さのわりに汗をかかない。木立ではアブラゼミが盛大に鳴いている。
上京したての頃の東京の夏は今ほど暑くなく、今日のような日が多かった。ただ、当時は大気汚染真っ盛りで青空が見えることは少なく、いつも靄がかかっているように見えた。
緑道公園は両側から木々の緑が覆っていて涼しい。今日、母に今年始めて麦藁帽を被せた。蝉時雨と緑陰と麦藁帽、この真夏の取り合わせは懐かしい光景だ。
夏休みに入って、自然公園の池はザリガニ取りの子供達で賑わうと思っていたが、相変わらず人影はない。今の子供は真夏の日射しに耐えられないのかもしれない。
それにしても、今日は素晴らしい夏である。緑陰の涼しさは、どんなに高級な空調より心地よい。
古民家には女子中学生が一人、ぼんやり座っていた。私は母をいつもの土間の片隅に置き奥の座敷に寝ころんだ。母が中学生に話しかけている声が聞こえた。風が抜けて気持ち良く、私は直ぐに寝入ってしまった。10分程で目覚めると中学生はいなかった。何か話したのかと母に聞くと、挨拶だけだったようだ。
帰りは駅前に出た。赤羽駅構内には新しい店が五軒ほど開店準備をしていた。店が構内に増えるのは便利だが、駅から離れた旧商店街は打撃である。すでに旧知に店がいくつも閉めている。
ガード下の北区役所出張所へ寄った。車椅子用トイレを使うだけではない。冷たくて美味い水飲み器が設置してあるので、空になったボトルに補充した。
帰り、緑道公園の巨大なプラタナスの木影で休んだ。巨木の下はいつも涼風が吹いている。そこで、先程補充した冷たい水を飲んだ。飲みながら夏はいいなと思った。
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