慰める言葉は存在しない。2005年11月19日
夕暮れ、買い忘れた文房具を川向こうへ買いに行った。木枯らしに大気は澄み渡り、夕空に奥秩父の山塊のシルエットが美しい。明日も晴れるだろう。
寒くなって、自然公園の古民家の縁側はひなたぼっこの親子や老人達でにぎわっている。心地よい日だまりでは、知らない同士、会話が弾んでいる。子供達も楽しげに遊んでいる。車椅子を押して体が火照っている私は、座敷の冷たい畳に横になる。横になっていると、子供や老人達の会話に包まれ、まるで家族の一員になったような気持ちになる。
風の音が懐かしい。今頃の風は枯れ葉を揺らしてカサカサと音をたてる。去年までは公園の草木に囲まれた暖かい小さな広場に腰をおろして、のんびり風の音を楽しんでいた。
今年は古民家で竃の薪の燃える音を楽しんでいる。煙の香り、時折弾ける薪の火、赤いおき火、子供の頃は毎日朝晩眺めた光景である。寒くなると、子供達には火の番は暖かくて楽しい仕事だった。だから、今でも薪の扱いは上手である。
父上を年初めに亡くされた元編集者の方から年賀状欠礼の葉書が来ていた。彼女は父上の介護のために早期退職されて介護に専念されていた。とても良い父親だったようで、今も喪失感に辛い思いをされている。私は彼女に大変世話になったので、年末までに手紙を書こうと思っている。しかし、良い言葉が思いつかない。
正直言って、慰める言葉は存在しない。
辛いことは本人が解決する他ない。もし、何かに感動できたら・・・たとえば、路傍に咲く草花、遊んでいる小さな子供の笑顔、そのようなささやかな一瞬に感動できたら、その人はやがて喪失感を克服し、亡くなった方を良い思い出にすることができる。しかし、そのような気持ちに到達するまでは、辛く長い試練が続く。
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