介護保険は頑張る者は不利に、怠惰な者は有利に認定される。2006年6月3日
早朝5時前、開け放っていた窓からの涼風で目覚めた。就寝時、蒸し暑くて夏布団を出したが、早過ぎたようだ。二度寝出来ないまま窓の黎明を眺めていると、母のレントゲンの事が頭に浮かんだ。
肝臓の腫れは去年の10月にも故K医師に指摘されていた。直ぐに手を打っていたら進行を阻止出来たのか。それとも、「何もしないのも、一つの選択肢ですよ。」と3年前のがん手術前に肝臓内科の老医師に言われた言葉が正しいのか、自問自答を続けていると、母が目覚めた物音が聞こえた。
暫くすると、母は台所で、九州から送って来た日向夏を調理し始めた。このミカンは表皮を薄く剥いて、ほの甘い白いフワフワを中身と一緒に食べる。香り高く爽やかで美味いミカンである。
母には立ったままの台所仕事はとても辛い。私は代わると言ったが、調理を続けようとする。もし、この姿が介護度認定審議会のメンバーに知れたら、即刻変更申請は拒否される。現行制度は頑張っている者は不利に、怠惰に暮らす者は有利に認定される。
母を無理に椅子に座らせ、私が調理を代わった。椅子に腰かけている母の後ろ姿は以前より大きく左に傾いている。肝臓のある右側を無意識にかばっているのかもしれない。
母の疲労感や異常感はすべて老人性鬱症の所為だと母に納得させている。しかし、それは正しくはない。鬱に先立つて疲労感や異常感が出現し、母は不安に捕われたのである。
だが、「何でもない」との医師の言葉が母を元気にした。どこまでこの方便が通用するかは分からないが、老人特有の素朴さが母を救ってくれるかもしれない。
母が両膝を人工関節に替えたのは83歳である。執刀医は高額手術だから、高齢の方にはいかがなものかと乗り気ではなかった。「それなら、93歳まで生きてみせます。」と母は食い下がり、手術となった。当時は75歳以上医療費無料と良い時代であった。
母も私も、それから10年も生きているとは考えもしなかった。
今日も自然公園で明るく楽しそうな母を見ていると、これからもずーっと元気で生き続けるような気がしてしまう。しかし、がん手術以来、その考えを払拭しなければと努めている。そして同時に、母の寿命は93歳で尽きるのでは、との考えが頭から離れない。
母は2ケ月後に93歳になる。
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