惚けは老人の心を安らかにする。2006年12月7日
朝から肌寒く曇っていた。
生協浮間診療所へ向かう道すがら、母はペインクリニックへ行くと勘違いしていた。勘違いは昨日からで、何度説明しても、整形外科と浮間診療所を混同する。他の記憶はしっかりしていて、昨日、大型犬の小次郎ちゃんが訪ねて来たことも、一緒に来たKさんが小倉の出身で昔話が楽しかったことも、はっきり覚えている。しかし、全く似ていない生協浮間診療所と赤羽北整形外科を混同するのは何故だろうか。
浮間橋を渡りながら、
「また、病院を間違えた。惚けたんじゃないの。」と強く言うと、
「あら、間違えた。ごめん、ごめん。」と母はのんびり答えた。
「しょうがないな。」と言いながら、内心私は母が少し惚けたことに安堵していた。
母の胃に潰瘍ができて、貧血や脱水症を併発したのも、原因は知人や可愛がっていたペットたちとの惜別だった。母はその喪失感の向こうに自分の死を垣間見て、ストレスになったようだ。
だから、母は惚けることで心安らかになるかもしれない、と思った。
川向こうの浮間地区は元工場地帯で殺風景である。その灰色の道を生協浮間診療所へ向かいながら、「生協は食べ物を買う所で、もう一つの生協は病院なのね。」と、車椅子の母は一人言を繰り返していた。
診察では潰瘍は順調に治り、貧血もなかった。待合室で会計を待っていると、看護婦さんたちが「元気になられて、良かったですね。」と母に話しかけていた。
処方箋は、新しく決めた薬局に持って行った。今まで使っていた薬局は若い子が多く楽しかったが、先月末に閉店した。今度の薬局はベテランが多く総てが事務的だ。桜並木の薬局はそこ1軒になり、これからは不便になりそうだ。
その後駅前へ出て、八百八でミカンを買った。お爺さんが安売りのミカンを値切っている。どうしてもまけてくれないと知ると「いらない。」と去って行った。
「まけろ、って言われるとまけたくなくなるよ。」と馴染みの売り子が私たちに言った。なるほど、そう言うものなのか、と思った。
帰り道の動物病院の待合室は相変わらず空の椅子が並んでいた。
「空席ばかりは寂しいね。」と母は呟いた。私なら、椅子に縫いぐるみを座らせて温かい雰囲気が出す。空席の列は今日の天気のように寒々しい。
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