老いは色々な思いを残して過ぎ行く。2007年3月20日
例年、春先から5月頃までは母の体調は安定している。仕事が不安定なだけに、母が元気で気分が休まるのはとても助かる。
車椅子を押していると、杖をついた老人が立ち止まって挨拶した。知らない人だが、先方は毎日、私たちを見かけているようだ。
「以前私も両親の介護をしていましてね。大変さがよく分かります。」老人はそう話して、去って行った。後ろ姿は元気そうだが、やがて一人での散歩は難しくなるだろう。それは自分の行く末を見ているようで、私は複雑な気分になった。
今日も好天だが寒風が強く、自然公園は静かだった。
いつもの休憩場所の古民家は茅葺き屋根の燻蒸の為、休館日である。それで、歩道の日溜まりで休んだ。以前は、茂ったススキや萩が風よけになって暖かい場所だったが、今は無茶な草刈りの為、風が吹き抜ける殺風景な場所になってしまった。
休んでいると、「お母様、寒くないですか。」と通りかかった元看護婦の知人に声をかけられた。母と彼女は風邪の流行から、草刈りされてしまつた自然公園のことを話していた。公園では自然を大切にする創立グループと、野草を刈り取り樹木を剪定する方針の後発の草刈りグループの対立が続いていた。しかし、腰が重かった区役所公園課が間に入り、自然観察公園の名前通りに自然保護方針が再確認された。細目では異常に繁殖して他の植物を枯らしてしまう葛などは取り除くが、他は自由に任せ、多様な自然植生を保護することになった。しかし、草刈りグループの一部はゲリラ的に野草を抜いている。その結果、石垣を覆っていた野イバラは刈り取られ、野ブドウ、アケビ等の蔓性植物は壊滅し、他にも引き抜かれた貴重種は数知れない。
彼女は豊かな自然を丸坊主にされたことを怒りまくっていた。それは母も私も同じである。公園が元の美しさを取り戻すには2,3年はかかるだろう。
帰りの緑道公園で、「元気そうで、良かったですね。」と、いつも会う老人が母に優しく声をかけた。その老人は気難しそうな人で、すれ違う時、黙礼を交わすだけで言葉を交わした事は無い。老人の歳は70代半ば。誰かに母の歳を聞いたようで、昔亡くした母親が健在なら私の母と同じ年頃だと話した。行きがけの老人と言い、老いは接する人に様々な思いを生じさせる。
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