漁船の目 2007年4月29日
傍らのテレビは「トロイ」を映している。既に見ている映画なので、画面は殆ど見ない。先程、画面をちらりと見るとギリシャの軍船が砂浜に引き上げられる所だった。
その軍船の船首には人の目が描かれている。子供の頃、郷里の漁船にも目の飾りがあった。丸い木彫りの輪が船首の両脇に貼付けられていて、子供たちは、舩にも目がないと迷うのだ、と話していた。だから、漁船の絵を描くと必ず丸い目を入れた。
今日の自然公園の古民家では、木挽きの実習をしていて中に入れなかった。
庭に丸太が2本、木台にかすがいで固定してある。建物入り口脇に木挽き用の大ノコギリが立てかけてある。漁師町で育った私には懐かしい光景だ。
私の郷里には漁船の造船所があった。今は強化ガラス繊維製の漁船ばかりだが、当時は木造船の時代だった。殊に、私が育った日南市方面は漁船用材に最適の飫肥杉の産地で、造船所近くの砂浜で太い丸太を木挽き職人が船用の板に挽いていた。
当時でも製材工場はあったが、機械挽きで繊維を切断された板は割れやすい。その点、手挽きの板は繊維に従って挽くので粘り強く割れにくかった。
それは気の遠くなるような作業で、炎天下で単調に続く木挽きを子供たちは半ば呆れたように眺めていた。職人は切れ味が鈍ると、傍らの小屋掛けの作業場でノコギリの目立てをしながら、日に1枚の板を切り出していた。
木挽きとは違い、進水式は楽しかった。餅まきの後、子供たちは真っ白な新造船が大漁旗を満載して海原を試運転する姿に見とれた。海洋汚染等無縁だった頃の南の太平洋である。この美しさは思い出すだけで胸が熱くなる。
粘り強く成長の早い飫肥杉の優秀さは認知されていない。東国原知事は炭焼き地鶏だけでなく、この杉を宣伝するべきだ。飫肥杉を始め、国産杉は世界一安い木材である。大きな乾燥設備があれば、国産杉は使われるのだが、その動きは鈍い。
傍らのテレビ画面では勇者達の闘いが繰り広げられている。今の顔の見えない戦争と比べると、それは人間的で雄々しい。
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