帝釈山登山中に中越地震。07年7月17日
夜半に降り始めた雨は9時に止んだ。
散歩はいつもより1時間遅れて出た。雨は降りそうにないが、雲が厚く覆っている。涼しくて、緑道公園を気分良く車椅子を押していると、「お気の毒に、どうなさいました。」と、知らないおばさんが母に話しかけて来た。どうやら、若いのに体が不自由でお気の毒、と誤解しているようだ。
「何度もガン手術をして今は94歳ですので、」
母はすかさず、手短に説明した。毎日、決まったコースを散歩している私たちのことが気になる人は多い。昨日も赤羽台団地で知らない人から「いつも大変ですね」と話しかけられた。そのような繰り返しで、随分沢山の人と顔見知りになった。この分では、もし私が区議会議員に立候補したら、三千票は堅い。
おばさんは納得して、自分も乳ガンと腎臓ガンの手術をしたと身の上を話し始めた。
相手をしていると、顔馴染みのおじいさんが通りかかった。おじいさんは左腕にサポーターをしている。
「その腕、どうされました。」
聞くと、中国の徐州作戦での古傷が涼しいと痛むのでと、おじいさんは出征の昔話しを始めた。その話になると長くなる。おばさんも顔見知りのようで、「これから、どちらへ。」と、話しをそらそうとした。しかし、「いやー、徐州作戦へ行きまして、」と、おじいさんの頭は中国戦線から離れられない。去年までは普通に会話出来ていたのに、最近は会話が成立しなくなった。
「これから自然公園ですか、私たちも追いつきますので、」
私が頭を下げると、おじいさんはニコニコしながら先へ歩いて行った。
「最近、あの方も少し惚け始めたね。」
おばさんと別れてから、母が言った。律儀な好人物なだけに、気の毒なことだ。
自然公園の管理棟に着くと、受付のガラス窓を開けて、Nさんが挨拶した。
「昨日まで帝釈山へ行ってましてね、地震に会って怖い目に遭いました。」
新潟に近い帝釈山は大揺れに揺れて、Nさんは四つん這いになって振り飛ばされないように耐えたそうだ。私も登山に熱中している頃、峻険な岩場で、こんな所で地震に遭いたくないと、何度も思った。しかし、実際の自然の地形は意外に堅牢で、滅多な事では崩壊しない。
帝釈山は尾瀬近くの静かな通好みの山である。私も1度行ってみたいと、計画していたが、母に手がかかるようになってしまった。
「母が逝ったら、私も登ろうと思っています」
Nさんと話していると、「あら、私が早く死んだら良いのに、って言っているの。」と、母が口を挟んだ。Nさんは冗談だと分かっている。しかし、山へ登りたいのは本当で、母を含め、総ての責任から解放されたら、気ままに山をうろつきたい。
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