浴衣の季節。07年7月5日
突然に夏に戻った。
「暑くなりそうですね。」と、すれ違う人ごとに同じ挨拶が返って来た。
管理棟で母に用を立たせ、すぐに涼しい椎の木陰へ連れて行った。木陰では、いつもの先客二人が母を待っていた。二人とは、車椅子生活のOさんと律儀なTさんである。母はこの80代の男性二人と大変うまが合う。二人とも荒波をくぐって来た人だが、今は共に好々爺で話していて疲れない。
Tさんは昨日まで鎌倉の海辺の別宅へ行っていて、疲れたとこぼした。
「放っておきますと、サーフィンに来た若者達が空き家だと思って、勝手に入って騒ぐんですよ。それで、ご近所から苦情が来ないように、定期的に行かなければならないんです。」
財産の無い私たちには想像もできない悩みである。それからTさんは
「自分も歳だし、手入れも面倒になって来たので売り払おうと思っています。」と話した。以前、株の事を話題にした時、Tさんの目つきが鋭くなった。彼は相場の世界で相当に激しくやって来た人である。だから、地価の上昇基調を見極めるタイミングも正確なようだ。
車椅子のOさんは印刷関係の元技師で、喋り口が洒脱で楽しい。
奥さんが先日眼鏡を変えたら、よく見えるようになって孫の浴衣を続けて3枚縫い上げてしまった、と話した。
「お孫さんは、おいくつ。」と母が年を聞くと22歳と言う。母も私も4,5歳の女の子と思い込んでいたので、笑ってしまった。確かに、80歳の孫ならそのくらいになっている。
その後、昔の浴衣の柄は紺一色で良かった、と言った話になった。そして、浴衣を着て出かけた、昔の夜遊びの話になった。母は、夜遊びに出かける祖父に、祖母が小さな母をくっつけて送り出していたことを話していた。祖父は子供ずれでは遊びに行けず、仕方なく夜の街を一周して帰っていたようだ。
夜遊びから、浴衣の帯に差したタバコ入れと根付けの話しに変わり、キセル掃除のラオ屋からパイプと葉巻へと話題は変わっていった。
「葉巻の香りは大好き。昔、帝国ホテル辺りには、くゆらせている人がいて、とても素敵な香りでした。」と母は昭和初期の思い出を話していた。母はタバコは吸わないが、葉巻の話をよくする。本当は葉巻を吸っていた男と付き合っていたのかもしれない。
ラオ屋とはキセルの煙管を掃除したり取り替える仕事である。
以前、浅草の雷門辺りに、銅製の小型ボイラーを積んだ屋台が出でいて、蒸気で雁首と吸い口のヤニ掃除をしたり、竹の煙管を取り替えていた。キセルはヤニ掃除が必須である。子供の頃、私はキセルを使っていた祖母の為に、毎日、古い和紙を裂いてはヤニ掃除に使うコヨリを何本もよっていた。だから、今も腰のあるピンとしたコヨリをよるのが得意である。コヨリの端はよらずに残しておき、キセルの煙道を通してヤニを拭き取る。
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