自然公園は都会の心のオアシス。07年9月21日
今日も自然公園は厳しい日射しだ。
炎天下、母は右手に杖、左手を手摺にノロノロと歩いて行く。私は車椅子に乗って、母の前後に霧吹きをしながらついて行った。
「おかあさんは、元気だね。」
聞き覚えのある声に振り返ると、残留孤児の母と娘だ。魚取り網を手に、これからジャブジャブ池に遊びに行くと言う。「これ、涼しいよ。」と母親の日焼けした腕にスプレーすると、ニコッと笑った。
木立に覆われた湧水池の橋上。立ち止まると沢沿いに涼風が吹き抜けた。沢のふちには彼岸花が更に咲いている。「夢のように綺麗な朱色ね。」と母は眼を細めて眺めた。
「今日も、暑いですね。」公園の掃除係の老人が、母に丁寧に挨拶して過ぎて行った。
このところ仕事が忙しく、世間のトゲトゲしさを感じる事が多い。対して、この自然公園の穏やかな世界は切なくなる程に優しい。
昨日より、母は少し元気を取り戻した。声に以前のような張りはないが、微笑んでいる表情が救いだ。椎の木陰で休んでいる母を眺めていると、先日、友人の夫人と電話で話したことを思い出した。彼女は7月に実母を亡くしている。彼女は家に出入りしていたヘルパーの人達と会うのが厭だと言う。会えば、死んだ様子を話さねばならないし、話せば悲しなるからだ。「最近、母の優しい言葉ばかり思い出すの。無理難題を言って困らせていた姿なら、憎たらしいだけなのに、思い出すのは優しい言葉ばかりで、辛くて辛くて。」と、言葉を詰まらせていた。私も母が逝けば、誰もいない椎の木陰で優しい笑顔ばかり思い出すのかもしれない。
帰り、母は疲れた様子だったので、生協で急いで買い物を済ませ、真っすぐに帰宅した。
今は静かにベットに横になっている。先日、体力が落ちたが、そのまま水平に安定期に入った。後2度ほど、体力が落ちたら自然公園行きは無理だと思っている。
夕日が、窓のすだれを透して壁に縞模様を作っている。暑い日だったが、風に秋の気配を感じる。
| 固定リンク