樅の木で失意サンタが首くくる 07年12月7日
昨日の夕食後、額を買いに新宿へ出かけた。三越の裏通りは、クリスマス飾りで華やかだ。人並みに老人が殆どいない、と思いながら歩いていると、真っ赤なジャンバーの老人がボソボソ歩いていた。追い抜いて振り返ると、老いた永六輔だった。
実物は20年以上昔、大阪から富山へ向かう特急の中で見た。その秋、教員殉職者の慰霊祭が大阪城公園であった。都城の中学教師をしていた長兄は授業中脳溢血で殉職しているので、母と次兄と三人で参列した。慰霊祭が終わった後、突然黒部へ行こうと決め、三人で富山へ向かった。
その時、車両通路を藍染めの作務衣風の服を着た永六輔が颯爽と抜けて行った。ちらりと見ただけだが、背の高い人だと思った。その記憶と比べると、新宿の裏通りを行く彼の背中は丸くなり小さくなっていた。派手な服に長くしゃくれた特徴のある顔なのに、若者達は誰も気づかない様子だった。
三越裏から左折して伊勢丹通りへ出た。歩いているのは若者ばかりで、直ぐ前を歩く熟年アベックがかえって目立つ。男は40代半ば。女の顔は若く見えるが、疲れの見える後ろ姿は40少し前か。男は女の腰に粘り着くように腕を回し、耳元に何かささやく。どう見ても夫婦ではない。二人が熱狂から醒めた後の寒々しさを想いながら、先を急いだ。
樅の木で失意サンタが首くくる
伊勢丹前から明治通りを渡ると目的の世界堂。この店の額を使うと、絵描き仲間に素人臭いと馬鹿にされる。しかし、ここ程大量の額が陳列してある店は他にないし、プロ用にありがちな仰々しい重厚さがないのが、かえって気に入っている。だから、私は仲間の言葉は気にせず今も利用している。
額を選んでいると「篠崎さんじゃない。」と女性が声をかけてきた。旧知の絵描きのOさんだ。彼女は先月電話をしてきた。丁度、母のことで忙しい最中だったので、後でかけなおすと電話を切った。電話はかけ直したが、彼女は留守だった。
その時の用件を聞こうとしたが、彼女は自分から饒舌に話し始めた。副業の絵画教室が絶好調で、今、絵は描いていない。版画をやりたいので研究しているが、迷っている。と言った内容だった。私は「どんなに大変でも、絵描きは絵を描かないとダメだよ。」と言って別れた。
額を2枚提げて満員電車に乗るのは気が重い。混み合った車内のあちこちから咳こみが聞こえた。幸いにも私の回りには風邪ひきがいない。それでも、北赤羽駅で下車してすぐに、持参したお茶で喉のウイルスを洗い流した。
午後7時に帰宅すると、母はベットからテレビを見ていた。腹が減ったので、九州から送ってきたオバヤキを芥子酢味噌で食べた。オバヤキとは九州の方言で、クジラの皮をスライスして茹でたものだ。昔は大変安価だったが、今は高騰して珍味になってしまった。これはコラーゲンたっぷりで美味い。
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