正月に墓参を済ませると、胸につかえていたものが取れた。08年1月4日
昨日3日朝、姉に来てもらって、母のシャワーを頼んだ。私は母のお昼支度をし、姉に留守を頼んで外出した。今日は去年の一周忌にお詣りしなかったMさんの墓参りと甥の墓参りをする。甥は姉の子供だが、墓参りに行くことは黙って出た。
Mさんの菩提寺は埼京線十条駅近くの雪峰院。途中、2リットル入りのミネラルウオーター2本と缶酒を買った。好天の墓地は静かだった。墓地入り口の六地蔵の足元に、瑞々しい赤いトマトが一個ずつ置かれているのがシュールだった。墓には身内が上げたらしく新しい花が生けてあったが、水は殆ど枯れていた。缶酒をMさんの墓石にかけ残りは私が飲んだ。大吟醸の「出羽桜」は、名前通り豊潤な香りがして美味い。酒で濡れた墓石をミネラルウオーターで洗い流し、残った水は故人の湯のみと花生けに注いだ。
墓前で一周忌にお詣りできなかったことを詫びた。立ち去ろうとすると「あら、もう行っちゃうの。」とMさんに呼び止められたような気がした。振り返ると、墓石辺りの日溜まりに彼女の笑顔が見えたような気がした。
何度も記入したことだが、30数年前、私がガンノイローゼになった頃、Mさんは築地ガンセンターの肺ガン専門医を紹介してくれた。ガン検診の結果は何でもなかったが、空腹時血糖値が127mg/dlと高いと指摘された。私は極度のアドレナリン体質で、検査漬けに不安になり血糖値が上がったのでは、と言うと、「そのような事もあるが、気を付けたが良いだろう。」と医師は答えた。
その瞬間から私はガンノイローゼから糖尿病ノイローゼに一転した。それからは都内の専門医を訪ね歩き、医学専門書を買いまくった。診察結果は、ややインシュリンの働きが弱いタイプだが病的な程ではない、とのことだった。しかし、後年、姉がⅡ型糖尿になったことから私にもその素質は十分にあった。もし、私が食事運動に気をつけなかったら、今頃は合併症に苦しんでいたかもしれない。だからMさんには今も深く感謝している。
雪峰院から京浜東北線東十条駅へ向かった。途中、商店街の細い通路の中程にどさ回り芝居の本山篠原演芸所がある。劇場前には新春公演「一見好太郎」の幟が立ち、熟年女性たちが楽しそうに次々と入って行くのが見えた。
商店街は殆ど閉まっていたが、小さな洋品店だけが開いていて、70程の禿げた店主が年始用のタオルを並べ、客待ち顔に立っていた。今時、年始にタオルは流行らず、立ち止まる通行人はいない。店主のぼんやりした視線は、昔の夢を見ているように感じた。
鴬谷駅で下車して、上野寄り出口から右折すると、すぐに寛永寺墓所がある。1年以上ご無沙汰している間に、墓地への上り坂は化粧レンガ等で綺麗に改装されていた。
墓所入り口の墓守の家では一家総出で墓前用の花を纏めていた。ミネラルウォーターを持参してきたのは、彼らに心付けを渡すのが厭だからである。
広大な墓地の向こうに国立博物館の冬枯れの木々が美しく見えた。甥の入っている黒御影の墓石にボトルの水をたっぷりとかけると、黒々と瑞々しくなった。墓前に手を併せると、胸につかえていたものがスーッと消えた。これで明日から、仕事に集中できそうだ。
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