辛い話しは、緑道公園の静かな道で母に話す。08年3月21日
20日
朝、母は小さな粗相をした。「すまないね。」と言う母に「気にしないでいいよ。」と、素早く片付けた。汚れた寝間着は風呂場の熱いシャワーで洗い、洗濯機で仕上げ洗いをした。外は寒い雨だ。寝間着を部屋干して、雨の中へ散歩へ出た。
緑道公園で若いメスカラスが小枝を集めていた。数日前から、同じ場所で彼女と出会う。小柄で艶やかな羽色が美しい。
「巣を作っているの。」
母が声をかけると、ちょっと首をかしげて私たちを見た。3メートル程の距離に私たちがいるのに怖がる様子はない。カラスは母の声の調子で、危険のない人だと判断したようだ。彼女は丁寧に小枝を吟味し、4,5本集め終えて桐ヶ丘体育館へ運んで行った。下からは見えないが、屋上に営巣しているようだ。
雨の緑道公園を車椅子を押しながら、本の仕事がうまく行っていないと、母に話した。話があってから半年。去年末にようやく企画が通り、年頭から資料集めに専念した。今回の本は老後をどう生きるかがテーマで、実用書に分類される。実用書作りには特有のノウハウがあり素人が作れる代物ではない。そこで、アンカーと呼ばれる外部の編集スタッフが執筆者に付くのが一般的だ。私にも、優秀なベテランスタッフが付き、大船に乗った気分でいた。
1月半ば、担当編集者から「進んでいますか。」とメールが入った。文面では、外部スタッフは他の仕事にかかっているので、私の仕事に関わるのは3月からになるとあった。
3月になって外部スタッフにメールを入れた。返事はその人からではなく、担当編集者から電話で来た。外部スタッフは本人の事情で私に付けなくなったと担当編集は話した。その編集スタッフを信頼していただけに、目の前が暗くなり、私はとんでもない状況に閉じ込められていることに気づいた。
車椅子を押しながら、今私が置かれている状況を母に話した。
「私は正喜の力を信じている。きっと、良い方向に変化するよ。」
母の答えはいつも楽観的だ。だから辛い話しを母に話したのかもしれない。更に、緑道公園の豊かな樹木が沈んで行く気持ちを和らげてくれた。樹間を抜けると、遠く満開の辛夷が雨に霞んで見えた。母の言うように、良い方向へ変化するかもしれない。そう思いながら、車椅子をグイグイ押した。・・・続く
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