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2008年6月18日 (水)

母の悩みは深いが、それでも日々好日。08年6月18日

今日も梅雨の晴れ間。明るい光が開け放ってある玄関から差し込んでいる。平和で穏やかな午後なのに、母はテレビも点けず黙ってベットに横になっている。この1ヶ月、連日粗相を続けていることがショックなのだろう。
「テレビも点けないで、どうしたの。」と聞くと
「考え事をしている。」と母の表情は暗い。
「粗相した事を考えてるんだろうけど、止まるより出る方が良いんだ。緩下剤の調整が巧く行けば、その内治る。」そう言うと、母は黙ったままで反論しない。言われて少し気が晴れたのか、「テレビをつけて。」と、母は話題を逸らした。「馬鹿言うんじゃない。出来る事は自分でやりな。」と、リモコンを渡して、私は自室に戻った。

耳を澄ませると、テレビの音声が聞こえた。老人の良い点は記憶力が衰えていることだ。多分、数時間後には、母は粗相した事をすっかり忘れている。その証拠に、週に1,2度訪ねて来る姉に、「正喜に、下の世話までさせて、大変な思いをさせている。」などと、母が言っているのを聞いた事がない。だから姉は、私が楽に世話していると安堵して、良かった良かったと帰って行く。もっとも、姉に恩を着せる気はないし、大したことでもない。

下の世話はされる方も、する方も、未経験者にはおぞましく、絶対に避けたいことだ。
赤ちゃんの世話なら、小ちゃくて可愛くて、さほど気にならないが、相手が大人となるとまるで違う。第一、赤ちゃんは日に日に成長して行く楽しみがある。対して、老人は日に日に手がかかるようになり、最後は逝かれて喪失感に苦しむことになる。

熟年夫婦の言い争いで、「・・・そんなことでしたら、老後の貴方の下の世話はしませんから。」との妻からの一言程に、夫を黙らせる台詞はない。世間では、さほどに下の世話はおどろおどろしい事だ。しかし、経験してみると大した事ではない。その都度、母は「迷惑かけて、ごめんね。」と情けなさそうにしているが、私は何も考えず自分で考えたマニュアル通りにさっさと片付けている。私が何も考えずに世話ができるのは、実母だからである。比べると、老人施設の職員やヘルパーの方たちには頭が下がる。仕事とは言え、彼らは赤の他人の下の世話を黙々とこなしている。

先程、母の様子を見に行った。
「毎日毎日、本当にすまないね。」と、母は同じ事を繰り返した。どうやら、ショックで頭がしっかりして、記憶が維持されたようだ。
母が滅入った時のために、NHKスペシャル、「激流中国、病人大行列、13億人の医療」が録画してある。それは、凄まじい拝金主義を医療現場に持ち込んだ中国の息苦しい程の歪んだ現実だ。たとえば、救急車で運ばれると、病人は運賃を払わされる。病院の受付ではベット代を更に徴収。それも彼らの月収の半分近い大金である。それより凄いのは、診察券を取るのに、前夜から病院前に並び、取れるのは一部の人たちだけだ。それでも、待合室は満員電車のように混み合い、患者と家族達は立ったまま延々と待たされる。

比べて、高度医療を安い料金でいつでも受けられる日本。
「日本で暮らせて、本当に幸せね。」と、番組を見ながら、母はしきりにつぶやいていた。もしかするとこの番組に、医療保険問題に悩まされている政府の深謀遠慮が込められているのかもしれない。この番組を見ると、日本の医療制度がとても素晴らしいものに思えて来る。見終えた母も粗相のことは忘れ、小さな幸せをかみしめていた。

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