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2008年6月 3日 (火)

家族がいれば、辛さに耐えられ、希望にもなる。08年6月3日

朝7時半、母の様子を見に行くと、テレビを点けたまま居眠りしていた。外は冷たい雨で寝心地が良いのだろう。立ったままテレビを見ていると、母はやっと目覚め、「私、朝食を食べたかしら。」と寝惚けた。朝食はすでに7時前に済ませている。「随分長く寝ていたね。朝食どころか、もう夕暮れだよ。」とからかうと、「うそ。」と母は窓の外を眺めた。私が子供の頃、昼寝をして目覚めると「随分長く寝ていたね。もう、明日になったよ。」と、母はからかった。母はそれを思い出したようで「朝食は食べた食べた。」と笑った。

3年前まで、母はいつもテレビドラマを見ながら手芸をしていた。それが今は、いつも居眠りしている。血中酸素濃度が低いので、脳へのダメージが起きているのかもしれない。終末期マニュアルには、食が細くなって一日中居眠りをしている、とある。今母は、終末期少し手前をウロウロしているようだ。そのような老親がたった一人の家族だと、時折、先行きが寂しくなる。

先日、1階でエレベターを待っていると「まさき。」と呼ぶ声がした。驚いて振り返ると若いお母さんが三つほどの男の子を呼んでいる。男の子は赤ちゃんの頃から知っていて、母親とは挨拶を交わすが、名前は知らなかった。エレベーターを待つ間、「まさきちゃんですか。私もまさきです。」と母親に話した。すると、男の子は嬉しそうに、親指と人差し指で可愛くVサインをした。
親子とはエレベーターで一緒に上がった。いつの間にか、男の子は小ちゃな手で私の人差し指をそっと握っていた。同じ名前だったのが余程嬉しかったようだ。母親はすぐに気づいて「おやおや。」と笑った。

そんな子供の仕草は、無邪気で本当に可愛い。家族として子供がいれば辛い時も頑張れ、希望を持てただろう。だけど、自分の子供を持ちたいと思ったことは一度もない。理由は絵描きの職業としての厳しさからだ。女房子供に苦労させても、好きな道を突き進む絵描きはいるが、私はそのようなストレスを抱えると良い絵が描けない。しかし、家族を持つことを捨ててまで、絵描きに価値があったかどうかは、はなはだ疑問だ。

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