進んでは止まり、母の老いはジグザグに行く。08年8月4日
母が私を呼ぶブザーの音が嫌いだ。呼ぶ理由の殆どは良くないことで、24時間、何時鳴るかかわからない。深夜でもけたたましく鳴れば飛び起きて、急いで母の部屋へ駆けつける。
その厭な音が最近増えた。今朝も午前4時半、ブザーに飛び起きて駆けつけると、辛くて起きられないと訴える。母は血中酸素飽和度が87と低く、常時、呼吸が苦しい。それに暑さや疲労が重なって、苦しさが増幅されたのだろう。更に厄介なのは、それをきっかけに老人性鬱が起きることだ。
しかし、私に出来る処置は少なく、救心と人参末を飲ませて弱った心臓を元気づけ、冷たい濡れタオルで頭を冷やすくらいだ。病院なら酸素吸入の手があるが、それに頼れば死ぬまで手放せなくなる。
世話を終えると、母は死んだように眠った。自室で仕事をしながら、時折、様子を見に行く。母はピクリとも動かず、呼吸が止まっているように見える。この寝顔は毎度のことで、驚きはしない。ただ、散歩中の生き生きとした母との落差が大きく、喪失感が気分を鈍く覆う。
朝食まで、仕事をしたり、横になったりして過ごした。
午前7時、母を起こし、朝食のテーブルまで後ろから支えて連れて行った。食欲はなく、半分以上を残す。日頃の食事自体が極端に減っているので、食べたのは私の一口分くらいだ。それでは拙いので、ヨーグルトを牛乳で溶いて飲ませた。
食後、テレビ前の椅子で再度寝入った母を起こし、8時半に病院へ行こうと言うと、無言で頷いた。
外は猛烈な蒸し暑さだ。9時に生協浮間診療所へ着くと、診察まで看護婦さんが処置室のベットに横にさせてくれた。大病院では、平気で病人を椅子で待たせるが、この診療所はそのような配慮をしてくれるので助かる。
30分程で院長の女医さんが母を診に来た。院長は聴診器をあて問診をして、
「呼吸も心音もしっかりされています。すぐにお元気になれますよ。」と優しく母に話しかけた。
母の身体の器官が弱っているのは年齢の所為で、病気ではない。だから、母が大金持ちでも、権力者でも、治す方法はない。必要なのはそのような優しい言葉だ。これで少なくとも欝は治まる。
帰り道、期待通り母は少し元気になった。途中、昼食用の食材を買って早めに帰った。
昼食後、私は明日納品する装丁の仕事に取りかかった。午後3時、昼の食事量が少ないので、オリーブ油入り野菜ジュースを飲ませた。これは私流の安直なガスパッチョでさっぱりして美味い。
午後は更に蒸し暑さが強まった。しかし、夕暮れに雷雨が来て、35度近かった室温は一気に30度を切った。今は雨は去り、遠く雷鳴が聞こえる。明日は少し涼しくなる。母は少しだけ元気でいてくれるだろう。
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