猛暑でも過ぎてしまえば、母には良い夏だった。08年9月14日
曇り空で時折雨が落ちる、との予報を信じ、パナマは止めて野球帽で散歩に出た。しかし、予報は外れて日射しが戻り、首筋や耳が痛痒くなった。しかたなく、頭からタオルをかぶって車椅子を押した。
自然公園の運動場は少年野球大会で賑わっていた。加えて蒸し暑さの中、草刈りのエンジン音がうるさく、早々に退散した。
自然公園からの帰路、「良い夏だったね。」と、ふいに母が言った。40度近くなった猛暑の去年の夏と比べると若干暑さは緩やかだったが、私の夏はいつもと同じように辛い。母の言葉は、厳しかろうと過ごしやすかろうと、一期一会の夏だから良い、と言う意味なのだろう。確かに思い返すと、どの季節も素晴らしくて心に染み入る。殊に冬の静けさは良い。カサコソと枯れススキを揺らす風の音を聞きながら、谷向こうの炊事棟の黒い屋根を眺めていると子供の頃の記憶が次々と蘇る。そんなことを母に話すと、木の間隠れの炊事棟は、「黒麹菌で覆われたイモ焼酎屋の、酒蔵に似ているね。」と言った。思い出は今を豊かにしてくれるようだ。
生協で食材を買い物して、緑道公園のベンチでツクツクホーシを聞きながら、かき氷の宇治金時を食べた。遠くから祭り囃子の音が聞こえる。八幡神社の秋祭のようだ。頭上を木々が覆い、とても心地良い。このところ、食欲がグンと落ちている母だが、この宇治金は食べてくれる。
食べていると、祭り囃子の聞こえる方角から顔馴染みのMさんがやって来た。
「今日の散歩はこちらのコースですか」と声をかけると、
「公園がうるさいので違うコースを選んだら、今度は八幡神社の御神輿がうるさい。あの騒ぎを見ると、戦争前夜を思い出して厭な気分になる。大戦前夜は戦意高揚に秋祭りまで利用され、楽しめなかった。」とMさんは話した。Mさんは80代半ば。終戦時は20歳前後で、大変な青春時代を送っていたようだ。
昼食後、大宮の浜田氏が額を受け取りに来た。我が家には使わない古い額が大量にある。それを片付けないと今回個展の売れ残りをしまうスペースがない。浜田氏は貧乏な画家を支援しているので、一助になればと提供を申し出た。二人で荷を車に積み終えた後、浜田氏は母に挨拶すると引き返した。
母はにこやかに挨拶した。
「ブログで、お母さんはとても悪そうだから心配していたのに、とても元気じやないですか。」と、浜田氏は言った。
「いえ、本当は弱っているんですよ。」と母は笑った。母は一瞬なら元気を装う技術があり、客の殆どは思い違いをする。しかし、客が去ればガクリと弱る。
浜田氏と個展の事などを立ち話して、見送った。いらない額が片付き、個展の売れ残りは総て収納出来て家が広くなった。母の散歩に引き続き、部屋の片付けに休み無く動いていたので、今は猛烈に眠い。
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