母は少しずつ、終末期へ向かっている。08年11月26日
最近、母は寝てから吐くようになった。胃からではなく、肺に溜まった水を咳に伴って吐く。肺の水は心臓が一段と弱ったせいだ。先月は肺の水が少なくなって安堵していたが、考えが甘かった。老いが易々と逆行する訳がない。
肺に水が溜まると、食欲が極度に落ちる。食べないと更に体力が弱るので、工夫して食べさせている。例えば、食器が大きいと食欲が失せるので、ママゴトみたいに小さな食器に盛って出す。食べ終えた食器は素早く片付ける。目の前に空の食器が並んでいると、沢山食べた気がして、胸が悪くなるからだ。
そのように工夫しても、日に日に食事量は減っている。それで、医師処方の総合栄養剤エンシュア・リキッドを食事の中心にした。おかげで栄養不良に陥らず、散歩コースの顔馴染みたちは「顔色が良くて、変わらずにお元気そうで。」と世辞を言ってくれる。
今日は午後5時15分に上野歯科医院に予約を入れてあるので、慌ただしく母に夕食を食べさせ飛び出した。親知らずの歯根治療は今日が最後で、次回から歯の被せものの制作に入る。丁寧な治療のおかげで、食事に違和感がないのが嬉しい。ジンククロライド(塩化亜鉛)配合のリステリンの効果で、現在歯石は殆どない。治療と歯石クリーニングは12月半ばに終わりそうだ。
6時15分に治療は終わった。
帰りに前野薬局に寄って、来月のヘルパーサービスの計画書にサインした。
「車椅子のタイヤが擦り減っている頃ですので、そろそろお取り替えします。」
対応したSさんが親切に言った。今年始めに取り替えた時、これが母最後の車椅子になると思っていたが、猛暑の夏を何とか乗り越えてくれた。来年早々に新しい車椅子に取り替えよう。
次に駅前のイトーヨーカ堂に寄って、ご飯に炊き込むアマランサスとモチキビと韃靼蕎麦を補充した。最近の雑穀ブームで手近に手に入るが、私が食べ始めた30年前は、御徒町の穀物専門店まで買いに出ていた。
私のご飯のレシピは、発芽玄米、餅米、ハトムギに前記の雑穀を混ぜる。その内、ハトムギだけは炊き上がりにくいので、先にたっぷりの水で小一時間煮込み、それに他の素材を加え、普通のご飯のように炊き上げる。世間では雑穀や玄米はパサついて不味いと思われているが、モチキビ(モチアワでも可)と、餅米を加えるとパサつき感がなくなり、実に美味い。
母は以前は白米を食べていた。しかし、食欲がなくなってからは、私と同じ雑穀を食べている。雑穀だと、少量で多くの栄養素を摂ることができるだけでなく、本当に美味いと言う。もしかすると、母の身体が求める栄養素が含まれていて、本能的に受け入れているのかもしれない。
母は散歩に出るのを渋るようになったが、無理に連れ出している。励まして連れ出せば、元気を取り戻す。今日も、東京北社会保険病院下の公園にさしかかる頃には元気になり、冷たい空気が心地良いと喜んでいた。夜来の雨に洗われた大気を深呼吸すると私も生き返った心地になった。
緑道公園の陸橋からいつものように、母は旧居があった辺りに手を合わせた。旧居に住み始めた頃、多くの家族や知り合いたちが健在で、とても活気があった。
その後、祖母、長兄、父、甥、そして知人たちが次々と逝ってしまった。
「裕子は、本当に死んだんだね。」
手を合わせた後、母は先月逝った上の姉のことをつぶやいた。今の住まいになってから、上の姉とは疎遠になっていたが、旧居の頃は頻繁に会っていた。それで思い出したのかもしれない。
赤羽自然観察公園の古民家にて、私と、土間で休息中の車椅子の母。
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