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2008年12月 6日 (土)

生き方の実用本では心の糧にはならない。08年12月6日

今年のベストセラー本10位までが発表された。どれも、象の神様のご託宣とか、いかに心安らかに生きられるかとか、どうすれば仕事が巧く行くかとか、老後をどう生きるかとか、実用書ばかりでドキュメンタリーや小説が含まれないのは寂しい。

私は、それらが人生の救いになるとは思っていない。ちょっと気分よくなる効果があっても、安直なハウツー本で救われたいとは虫が良過ぎる。それらは一瞬効く鎮痛剤みたいなもので、治療薬にはほど遠い。良いとこ取りのつまみ食い本より、現実の方が遥かに人生訓に満ちている。殊に、不景気とリストラ旋風が吹き荒れる中で戦う現実の方が、何百倍も生きるのに役立つ。

自分に影響を与えた本はドキュメンタリーばかりだ。
20代始めに買った西域探検紀行全集全11巻には大変感銘を受けた。今も傍らに第6卷のガブリエル・ポンヴァロ(1853〜1933)著の内陸アジア縦断がある。眠れない夜、数ページを読むと心安らぐ。

紀行文の出発点はフランス・マルセーユ。パリ、ベルリン、セントペテルベルク、モスクワからオムスク、セミパラチンクス、クルジャを経てタクマラカン砂漠を縦断。更に、コンロン山脈、チャンタン高原、メコン川源流を経てハノイに至る大紀行文だ。それらの地名は羅列するだけで心躍る。

本文はクルジャ辺りから始まり、描写にリアリティーがあって読み応えがある。
当時写真技術はあったが、挿絵に使える程の印刷技術はない。代わりに、写真やスケッチを元に彫られた精緻な銅板画の挿絵が美しい。当時のヨーロッパはシルクロードブームで、そのような高価な銅板画入りの本が多数作られたようだ。

小説にも影響を受けているが、リアリティーに欠ける分、影響は弱い。
その点、映画は本以上に大きな影響を受けた。作品を選ぶのは難しいが、直ぐに頭に思い浮かぶのは小林正樹監督、1959年「人間の条件」だ。この6部作9時間38分の超大作を、昭和40年初頭、池袋日出町3丁目の都電通りに面した人生座のオールナイトで一気に見た。古い映画館で、夏は暑くて冬は寒く、客席までトイレが匂っていた。
見終えた達成感で、半ば虚脱状態で外に出るとお昼近くだった。池袋の雑踏を映画と現実の乖離に呆然としながら歩いたことを今も鮮明に覚えている。

--主人公、梶-仲代達矢。妻美千子-新珠三千代。昭和十八年の満州。満鉄調査部勤務時に結ばれた梶夫婦は老虎嶺鉱山に赴く。梶は中国人を酷使する会社の姿勢と戦争への疑問を覚える。
やがて梶は当局に睨まれ、現職免除と同時に臨時召集令状が届く。
非人間的で過酷な軍務中も、梶は人間としての良心を失わない。そして敗戦でソビエトの俘虜に。梶は収容所を脱走し妻の元へ、絶望的な逃避行を続けるが、厳冬の原野で妻の姿を夢見ながら倒れる。

長大なストーリーを短く語ることは無理だ。梶が妻や良心のために、ひたすら歩き続ける姿に大きな感銘を受けた。今も、人生座でのオールナイトは現実の人生の一部のように感じている。

当時、仕事仲間だった二つ上の飾り職のYさんに「人間の条件」を見たと話すと、彼は直ぐに見に行った。
Yさんは今も盆暮れに私と母を訪ねて来る。今夏、お中元で来訪した時、昔話をしていると、彼は「人間の条件」ことを話した。彼は遠くを見つめるように熱く語っていた。ちなみに、映画のロケ地は北海道東北部のオホーツクに面した寂しい原野。撮影当時は今より遥かに自然豊かだったはずだ。

Kominka_2KamadoRyokudo上、赤羽自然観察公園の古民家と田圃。

中、古民家の竃。残り火で沸いている湯の湯気が温かい。

下、緑道公園。昨日の強風で落ちた枯れ葉が美しい。

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