時折惚ける母の相手をしながら、劇団七曜日時代を懐かしく思い出した。09年1月25日
お年玉年賀状の抽選発表があった。4等が1枚と今までで最低の当たり数。貰った枚数での確率は4枚なので、かなり悪い。今年の私の運勢を暗示するようで少し落胆した。
しかし、今まで、当たり数が多くて良い年になったこはないし、少なくて悪い年になったこともない。気にするほどではないようだ。母は20枚で1枚の当たり。こちらは素直に良い年になると信じよう。
午後の埼京線北赤羽駅と新河岸川。玄関前から撮った。
朝から久しぶりに好天。昨日、車椅子を新車に取り替えた。ニュータイヤは転がりが良くて押していて心地良い。日射しも温かく、押しながら眠くなった。
御諏訪神社先のゴールデンのルイちゃんに久しぶりに会った。珍しく玄関が開いていて、車椅子の音に気づいた彼は飛び出して来て、庭の柵の間から挨拶した。
「覚えていてくれたの。」
母が手を伸ばすと、ニコニコしながら母の手を舐めて、大急ぎで家の中へ引っ返して行った。人懐っこい子だが大型犬なので、通行人の中には怖がる人もいるのだろう。それで、最近は庭へ出ないように厳しく躾けてある。
「お利口で、優しい子ね。」
母は嬉しそうに、しばらくルイちゃんのことを喋っていた。
東京北社会保険病院下の公園で休憩した。
「昨日、沖縄の美樹が電話して来たよ。」
お茶を飲みながら、姪のことを話した。
「美樹って、だれだったけ。」
母はキョトンとしている。
「晃子の娘だよ。忘れたの。」
「晃子って、誰だったけ。」
晃子とは私の直ぐ上の姉で、それまで忘れるとは、と慌てて聞き返すと、
「ちょっと惚けたふり。自分の娘を忘れる訳がないでしょ。」
と、すましている。最近、母は孫の名をしばしば忘れる。それをごまかそうと、姉の名も忘れたふりをしたようだ。
昨夜、姪はにぎやかな宴会場から電話して来た。
「今、おじさんの懐かしい人がいるから、代わるね。」
そう言ってから電話に出たのは、劇団七曜日の頃の役者さん、近藤芳正氏だった。
彼は、TBS日曜9時放映の「本日も晴れ。異常なし」に出演中で、沖縄ロケで暫く滞在していると言う。姪は地元情報誌の仕事をしているので、地元スタッフの手配を頼まれたようだ。
電話背後のスタッフ達の、にぎやかなざわめきが懐かしい。劇団七曜日の宣伝美術をしている頃、芝居の千秋楽の打ち上げでは、いつもそのように深夜まで楽しく飲んでいた。
近藤芳正氏と会ったのは、1995年銀座彩林堂での個展が最後だ。その時彼は、婚約者の可愛い女性と一緒だったが、今は一人だと話した。彼もNHKスペシャル「男と女」を見たようで、「愛情を長く維持するのは難しいですね。」と言った話しになった。それから、昔の役者さんたちの消息になった。今も数名とは付き合いが続き、去年9月の個展に来てくれた。七曜日の頃の日本は元気が良く、絵描きに転向したばかりの私は、遅咲きの青くさい希望に燃えていた。
再度、姪に代わってもらい、「人間関係を大切にしな。」と話して切った。
緑道公園に着く頃、母は姪のことをはっきりと思い出した。
老人は死の恐怖から逃れるように惚ける。正常な脳で死の絶望的状況に晒されるのは、大変な苦痛だからだ。
最近の母も周期的に惚けるが、介護を続けて来て、惚けは死の準備運動だと思うようになった。だから、母の惚けは容認している。
久しぶりの好天で、緑道公園には近所のネコたちが沢山遊んでいた。若いお母さんと小さな男の子が日溜まりにしゃがんで、野良の姉妹ネコを撫でていた。
「ネコが2匹いるから、ニャンコ。」
母は姉妹ネコを見て、駄洒落を言った。時折、母の脳は正常になる。
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