少々惚けても、悪知恵は我々と変わらない。09年2月26日
母の入浴介助の日なので、その間に床屋さんへ出かけた。雲は低く、今にも雪が舞いそうな冷たさだ。緑道公園の沈丁花は半分開いただけで、残りの莟は一休みしていた。
緑道公園を抜けた辺りに小さな下駄屋があったが、先週、道路拡幅工事に伴い撤去された。更地になると二坪足らずで本当に狭い土地だ。老夫婦が細々とやっていた店の商品の下駄は20年前と殆ど同じで、どうやって暮らしているのだろうと、いつも心配していた。
床屋さんに頭をあたってもらいながらその話しをすると、近く、下駄屋さんは床屋さん前に靴の修理屋を開くらしい。そこはクリーニング店の跡地で、家主は空き家にしておくより良いと、家賃5000円で貸してくれると言う。いくら不景気でも破格の安さだ。長い付き合いで良い信頼関係があったのだろう。
話しの中で、下駄屋さんは相当の資産家だと知った。昔、下駄屋さんは相場をやっていて、数億の資産を築き、マンション住まいで一生食べるに困らない、と言う。下駄屋は余生の道楽で始めた商売で、これからは靴の修理屋で人付き合いを楽しむようだ。大不況の中、ものを大切に使う風潮が生まれ、修理業はどれも活況だ。下駄屋さんの目の付けどころに、元相場師の片鱗を感じた。
昔、私が関わっていた宝飾品の修理作り替えも忙しい。私も工房を構え、身につけた技術を活用させたいところだが、これが簡単ではない。顔馴染みや紹介なら問題ないが、危ない客が必ずいる。たとえば、安物の宝石入りの装身具修理を持ち込み、できあがってから、「宝石に傷がある。大切な親の形見をどうしてくれる。」と高額の補償金を要求する。着物のかけはぎ、染み抜きにも、そのような客は付きもので、個人の修理屋はそのようなストレスを溜めることになる。その点、靴の修理なら気楽そうだ。
午後は年賀状の整理をした。今年は広告関係とイラストレター10人ほどからの年賀状が来ていない。不景気の影響だろう。そう言えば、今年に入ってからメールと電話も激減した。先日、知人のデザイナーに電話してみると、大変に厳しい状況だった。TVCM、新聞雑誌広告、イベントは一昨年辺りから落ち込み始めたが、好調だったインターネット広告も去年後半から沈下傾向が見える。この様子では、今後、付き合う顔ぶれが激変しそうだ。軽く調子良く付き合っていた相手は消え、本当に心を通じ合っていた相手だけが残るだろう。
夕暮れ、ベットの母に、
「夕食を作る間、つまらない用事では呼びつけないでくれ。」
と頼んで、料理を始めた。しかし、10分も経たない内にブザーで呼びつけられた。
慌てて飛んで行くと、「起こして、椅子に座らせてくれ。」と言う。
「あと15分待ってくれたら料理が終わるのに。」と怒ると、
「先が長くないのだから、我が侭を聞いて。」と母は文句を言った。
最近、母はそう言えば私が黙ると承知している。
少し前までは、わざと激しく咳き込んで私を黙らせていた。
先日、「母は都合の悪いことを言われると、わざと咳き込んで黙らせます。」と知人と話しているのを聞いてから咳き込みは止め、「先が長くないのに・・・」に作戦を変えた。
老人は子供同じと思われているが、年寄りは子供ではない。少々惚けていても、悪知恵の使い方は我々と変わらない。
今年の年賀状の原画。潔癖性でどこかいい加減な乳牛たちを描いた。
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