何故か、のどかな日に母の老いは進む。09年2月6日
赤羽自然観察公園の日溜まりで休んだ。季節は確実に春に近づいている。石畳に腰を下ろしても冷たさはなく、日射しが温かくて眠くなった。
傍らでは、母が上の死んだ姉と下の姉の名を交互に数えていた。
「女の子は二人だけだったけ。」母は娘の数に確信が持てない様子だ。
「もう一人、遠賀川で拾った正子がいただろ。」と答えると
「また、混乱させて。」と、母は笑った。
遠賀川とは、築豊の炭坑地帯の代表的な川だ。五木寛之の「青春の門」はこの一帯を舞台にしている。昭和18年頃、父の仕事の関係で遠賀川近くに住んでいた。当時、遠賀川は洗炭排水で真っ黒に汚れていて、石炭粉末でできた川泥からタドンができたくらいだ。
子供の頃、真っ黒に汚れた下の姉と私が、その真っ黒な遠賀川をドンブラコッコと流れて来たので橋の下で拾った、と母は話していた。私はそんな冗談は聞き流したが、姉は自分を悲劇のヒロインに仕立て、メソメソ泣いていた。母の設定は私が生まれる前で、ちょっと考えれば分かることだが、姉はそこまで頭が回らなかった。
散歩帰りに寄ったスーパーにバレンタインのチョコレートコーナーができていた。チョコ好きの私としては素通りできず、手頃なプラックチョコを買った。
子供の頃、最初に食べたチョコの豊潤な香りが強烈に記憶にある。それでチョコを買ってしまうが、期待はいつも裏切られる。原体験のチョコはアメリカハーシー社製で、今食べたら美味くない。それを極上の美味しさに感じたのは、砂糖が貴重な時代で、味覚が鋭敏だったのだろう。
そのチョコは、小倉で米軍相手の仕事で大成功していた母の兄、清伯父が米軍放出のラッキーストライクやDDTやビスケットなどと一緒に送ってくれたものだ。
オリーブグリンの金属ボトル入り米軍放出のDDTは、とても格好よく見えた。ボトルはジョンソン・ベビーパウダーにそっくりで、キャップを半回転させ穴を開き、DDTを振り出した。
対して、当時の国産ノミ取り粉は、除虫菊エキスを石灰に混ぜた粉末で、平らな丸缶からペコペコ押してふりまいた。国産と比べると、米軍DDTの効き目は強力で、一度撒くとノミは殆ど姿を消した。
そんな昔話を車椅子の母と交わしながら帰った。
テレビでは、円天の波会長逮捕のニュースばかりだった。
この犯罪はサブプライム問題と極似して見える。円天は年利36%で、1000万投資した被害者は、最初だけ360万もの利息を貰い、これで一生食えると有頂天になっていた。それは、ハイリターンのバブルから、紙くずに暴落した米国の金融商品の経緯と、どことなく似ている。本当は無価値なのに、使って使ってもなくならない大金があるように錯覚させたのも、円天と似ている。違いは、個人が詐欺をした円天は裁かれ、世界規模で大量に詐欺をしたサププライムは、ただの経済失策にされていることだ。
写真は東京北社会保険病院下の公園から見える都営桐ヶ丘団地の給水塔。この一帯では何処からも見え、昔は子供たちの格好の待ち合わせ場所だった。
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