電話では相手の本心が見える。09年4月12日
朝のうちは涼しかったが、散歩へ出る頃は薄日が射して暑くなった。
緑道公園のベンチで、缶チュウハイ片手の説教おじさんが相棒に熱く語っていた。
「金持ち病ってやつを知っているか。これは美食と不摂生が原因だ。例えば、生ウニ、松坂牛、ホアグラ。こんなものを毎日食っているとコレステロールが高くなり、脳梗塞を起こす。」
悪いものから肝心のタバコとアルコールが抜けているが、相棒は「どれも、食いてえな。」と頷いていた。
去年、説教おじさんはアル中が重くなり足がもつれていた。いよいよダメだと思っていたが、驚異的に回復した。よほど、頑健な身体の持ち主なのだろう。
話す様子では、彼は元サラリーマンに見える。何が彼をホームレスへ追いやったのか。原因の一つが酒なのは間違いない。
桜広場で大型犬の小次郎君に会った。
完全失明してから半年、彼はすっかり闇の世界に慣れた。母が呼ぶと、上手に障害物を除けてやって来て、おやつをねだった。失明すると、残された聴覚嗅覚が鋭敏になる。障害物は、物が発する赤外線や、空気の流れの乱れや、音の反射で分かるようだ。
闇夜散歩の愛好家がいる。小次郎君のように、闇に視覚が妨げられることで、感覚が研ぎすまされ、見逃していた物の本質が見えるのが楽しい、と語っていた。
35年前、姪たちは毎週のように我が家に泊まりに来ていた。その時、母との会話を録音したテープがある。再生すると、若い母の声や、姪たちの可愛い声が目の前の出来事のように再現される。音は写真より、遥かにリアル感がある。視覚に頼り過ぎると、現実をしっかり認識できないのかもしれない。
先日、久しぶりに誘われて、古い友人に会った。
近況を話している内に、彼は30年以上昔のことを持ち出し、私をチクチク非難し始めた。どれもすっかり忘れていたことばかりで、面食らった。当時、私は自由気ままに暮らしていた。真面目な彼はそんな私が許せなかったようだ。その後、彼は社会的に成功し、優しい家族にも恵まれた。私と比べ総てが豊かな彼が、私を憎んでいたとは想像もできず唖然とした。しかし同時に、「やはり、そうだったか。」とも思った。
彼と会ったのは1年ぶりだが、その間、幾度か電話をしている。電話口の彼は陰気で言葉の一つ一つに刺があり、会った時の温厚で人当たりの良い彼とは別人に思えた。今思えば、電話では笑顔や風貌に幻惑されず、彼の本心が見えていたのだろう。
闇に視覚が閉ざされて本質が見えるように、電話では相手に本心が悟られやすい。しかし、ヘラヘラ愛想良く喋れば軽薄に思われる。誠実に、きちんと話すのが良いようだ。
老いた今、残りの人生を不愉快にしないために、厭な者とは付き合わないことにしている。だから彼とは、距離を持つことにした。
帰り、生協で宇治金アイスを買って、緑道公園の木陰で母と食べた。
相変わらずベンチの説教おじさんは、政治談義を熱く相棒に語っていた。アルコールが切れれば、借りて来たネコのようにおとなしく無口になる。
写真1。
説教おじさんの近くで、白ねこが気持ちよく寝ていた。
写真2。
環八を挟んだ向かいの公団のスミレ。
緑地に群生していたが、去年、改装のために掘り返され心配していた。野の花は強い。数年で元のように増えてくれるだろう。
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