卯の花と、タラの木の若葉と、インドの女医さん。09年5月24日
雨の緑道公園の帰り道、公園脇のEさんの家から声がかかった。
立ち止まると、Eさんが歩道の法面を急いで登って来た。
「荷物になるけど、持って行って。ゴマ和えにすると美味しいよ。」
彼女は手提げ一杯のタラの若葉を差し出した。タラは好物なので丁重に礼を言った。
「また、下さいね。」
傍らから、母が図々しいことを言った。
「最近惚け気味ですので、こめんなさい。」
謝ると、「いくらでもありますから。」と、彼女は笑顔で庭先を指差した。
タラの木は刈られた跡が分からない程に元気に茂っていた。
春浅い頃にも、彼女からタラの芽を貰った。タラの芽は大変美味しいが、若葉も柔らかく、ほろ苦い独特の風味が美味しい。
持ち帰ったタラの若葉は湯引きして半分はお昼の味噌汁の具に、半分はゴマ和えにして美味しく食べた。太い茎はグリーンアスパラ似た美味しさで、料理をしながら食べてしまった。
昨夜はNHKの「ER緊急救命室」を見ていたので、今日は寝不足だ。
このドラマは、普通の医療ドラマの10話分くらいの要素を1話に凝縮してあり、息をつかせぬ緊迫感が魅力だ。おかげで、見始めると眠いのを我慢して見切ってしまう。最近はインド系の女医さんが重要な役をしている。インドはアーユルヴェーダの国で、古来優秀な医師が多い。
先日は生協浮間診療所に、インドから女医さんが研修に来ていた。
母が診察室に呼ばれると、彼女がにこやかにドアを開けてくれた。藤沼医師の説明では、インドの医大で教えている優秀な人らしい。女医さんは藤沼医師の診察を熱心に観察していた。
母は血圧も正常で、取り立てて悪い所はない。
「先生。こちらへ参りますのが、いつも楽しみです。」
診察が終わると、母は馬鹿なことを言った。
「やぁー、そう言っていただくのは有り難いですけど、病院とは縁がない方が良いですよ。」
藤沼医師は明るく受け流し、女医さんと英語でやり取りしていた。
「先生はインドの女医さんと何を話していたのかしら。」
診察室を出るとすぐに母が聞いた。
「このおばあさんは変なことを言っているが、それは惚けているからで気にしないように。と話していた。」
でたらめを言うと、母は「馬鹿。」と首を振った。
本当は、聴診器で診た結果と足の浮腫みの具合を話し、今は良い状態だと、話していたようだ。
と言っても、最後の"良い状態"の辺りだけが聞き取れ、医学用語はさっぱり分からなかった。
インドからの研修は高度医療現場より、問診触診聴診主流の市井のローティク診療所が向いている。医療関係の知人によると、最近の若い医師はローテクの診断方法は教わらないらしい。40代の藤沼医師は自分で研究して身につけたのだろう。
午後、寝不足を補おうと横になったら、電話で起こされた。
池袋で夕飯を食おうと、T君からの誘いだ。最近、誘いを断ってばかりなので、渋々承諾した。
久しぶりの池袋は若者で溢れていた。日曜のせいか、中年以上はまったくいない。いたのは雨から地下道に避難して来たホームレスのおじさんたちだけだ。
行き交う薄着の女の子たちが可愛いくて、視線が前後左右に踊ってしまった。食事を済ませて出たので、コーヒーだけ付き合った。気のせいか、咳き込んでいる若者が多い。彼らを厳格に調べたら、新型インフルエンザが検出されるかもしれない。その国の患者数は医療事情で百倍は開きが出る。だから、報道の数字で判断するのはナンセンスだ。
人混みでも、マスク姿は非常に少なかった。
マスクは人にうつさない効果はあるが、吸い込まない効果は殆どない。私の知っているおばあさんは、同じマスクを一月間使い続けている。これでは、常時汚染した空気を吸っているようなものだ。
雷雨が激しくなりそうなので、10時に池袋駅でT君と別れた。
行きはガラガラ空いていたのに、帰りの埼京線は超満員。人いきれの厭な匂いで頭が痛くなった。最近、人混みへの耐性がまったくない。
帰宅後、着ていた服を総て洗濯機に放り込み、シャワーを浴びた。新型インフルエンザには関係なく、母が風邪を引かないように、いつもそうしている。
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赤羽自然観察公園は卯の花が多い。
今が盛りで、雨に濡れた地面を覆う花びらが美しい。
好天なら、無数のマルハナバチが花粉集めに飛び交っている。
夏は来ぬ」の一番に、
卯の花の匂う垣根に、ホトトギス 早も来鳴きて、忍び音もらす夏は来ぬ。
とある。しかし、鼻を近づけても香りがしない。毎回、嗅覚がダメになったと心配するが、卯の花は本来香りがない。調べてみると、歌詞の「匂う」は花が咲き誇る様を表現したものだった。
しかし、歌詞につられ、卯の花に鼻を近づける年配者は多い。
中には「まあ、素敵な香り。」と、うっとりする人もいる。うっとりした香りの元は何だったか。自分が付けた香水か、あるいは幻匂だったのかもしれない。
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