太宰生誕100年の桜桃忌に、ヤマモモが熟した。09年6月17日
10時に東京北社会保険病院眼科へ母の定期診察に行った。ほとんど待ち時間なしで診察を受け、11時に支払いが済んだ。
庭を抜けて病院を出た。
病院庭のヤマモモが熟し始めている。写真より更に紅色が濃くなると美味しい。
熟しても酸っぱいので、そのままではなく塩水に漬けて食べる。
塩分が酸味を和らげ、口に含むと独特の芳香と仄かな甘味が広がる。
ヤマモモは暖かい地方の果物だったが、温暖化のせいで、東京近辺でも美味しく熟すようになった。
困るのは、歳のせいで剥き出しになった歯の象牙質を酸が痛めることだ。歯ブラシで擦ると飛び上がるほどに痛い。だから、食べ終わるとすぐにフッ素入りの歯磨きでそっと磨く。フッ素の働きで、唾液中のカルシウムが再吸収され痛みはすぐに治まる。
薬局で処方目薬を受け取り、お中元の申し込みにダイエーへ向かった。
途中、母が疲れを訴えるので、いつも持参している長城清心丸を飲ませた。1丸の8分の1だが十分に効く。口に含ませ10分ほど車椅子を押していると、母は快活になった。
駅近くの文房具店でA4のボール紙を買った。通販では1枚10円だが、間に合わせに1枚30円を20枚買った。ボール紙は絵の下描き用に重宝している。下描き用の紙は安いことが重要だ。安いと気にせずに描きなぐるので、発想が伸びやかになる。
最近、虚礼にうんざりしている。しかし、ダイエーで品物を選び支払いを済ませると、うんざりは雲散霧消した。送り先の殆どは九州の母の知り合いだ。帰り道、田舎の年寄りたちの素朴な笑顔が思い浮かび、送って良かったと思った。
写真はダイエー帰りのスズラン通り商店街。
久しぶりに中国の古い型染めの上着を母に着せた。
終戦直後この商店街あたりは家賃が安く、多くの絵描きたちが移り住み、池袋モンパルナスに対抗して赤羽モンパルナスと自称していた。それらの画家代表に司修がいる。
知り合いに、彼らの歴史を調べていた老カメラマンがいた。ドブにバラックが並ぶ終戦直後の写真を見せながら、当時の様子を話してくれた。もっと詳しく聞きたかったが、20年前に急逝してしまった。
傍らのテレビで、NHK歴史秘話ヒストリア「絶望するな ダザイがいる〜太宰治"人間失格"誕生秘話〜」をやっている。太宰作品で好きだったのは「富嶽百景」と「津軽」だ。若い頃、「富嶽百景」を片手に富士へ、「津軽」を片手に津軽を旅した。今も、それらの抜粋を聞くと旅の情景が蘇る。津軽では早稲田小劇場の女子大生と知り合った。帰京してからも少し付き合った。そんなことを思い出しながら、若さは素晴らしいと思った。
太宰の随筆は良かったが、小説は情感が私の気持ちを上滑りしてしまい、心に残っていない。
好きな作家は、彼を芥川賞から落した川端康成だ。「雪国」も「伊豆の踊り子」も、全編に陰微なエロチズムが横溢していて大好きだ。
太宰作品は男心を揺り動かすエロい部分が少ない。だから太宰小説は女性に好まれるのだろう。川端が芥川賞から落したのは、太宰の品行の所為にされているが、本当は川端と太宰の作風の違いかもしれない。ちなみに川端作品は数多く映画化され、太宰作品は殆どされていない。その点でも対照的だ。
太宰がテレビ時代まで長生きして生身の姿が晒されていたら、評価は良くも悪くも変わっただろう。テレビ時代に、女好きの金子光晴との対談が実現していたら面白そうだ。金子光晴と思ったのは、以前、NHKアーカイブス「あの人に会いたい」で吉行淳之介と金子光晴の対談を見たからだ。
「私の地位を利用しようと、色気で迫って来る文学志望の女性がいる。そんな女性をどう思いますか。」
金子が聞くと、「そのような女性は厭ですね。」と、吉行淳之介は軽蔑するように答えた。
「私は厭じゃないです。迫って来たら喜んで身体を触りますよ。」
老いた金子光晴は楽しそうに笑った。その助平心はとても良い。もし、相手が太宰だったらどうだろう。彼なら男を利用しようと迫る女の側に立ち、心情を的確に代弁して金子を皮肉っただろう。
金子光晴本業の詩は暗くてつまらないが、片手間に描いた絵は伸びやかでとても良い。彼が詩を書く代わりにシュールな絵を描いていたら、絵描きとして相当に名を成した、と思っている。
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