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2009年8月12日 (水)

老人とペットたちの年を経るスピードは似ている。09年8月12日

緑道公園を車椅子を押していると、歩道脇の家から母に声がかかった。
「暑いのに、お元気ですね。」
窓から顔を出しているのは85歳になるSさんだ。
「元気ではありませんよ。最近、すっかり弱りました。」
母は本当のことを答えたが、Sさんは謙遜していると思っている。
春先まで、Sさんの奥さんと母は毎日のように赤羽自然観察公園で挨拶を交わしていた。しかし今、彼女は膠原病で入退院を繰り返している。
Sさんは、その頃まで元気に散歩を続けていた。一人歩きが好きな人で、夫婦での散歩は大嫌いと話していた。しかし、奥さんが倒れてから、ガクリと弱り、生協で買い物中のSさんに会うと、急に老いて寂し気に見えた。

老人とペットたちの年を経るスピードはとても似ている。犬の1年が人の5年に相当するように、老人の1年も熟年までの5年に相当する。
母を赤羽自然観察公園へ連れて行くようになってからの7年。その間に散歩道の老人たちの顔ぶれは目まぐるしく変化した。あと1年が過ぎれば、母の状況は更に激変しそうだ。

赤羽自然観察公園では赤とんぼが舞い始めた。
青空へ風に乗って一気に上昇する姿は、目が覚めるように美しい。ミンミンゼミやアブラゼミも勢いが弱まり、ツクツクホーシが目立つようになった。朝夕の涼しい時間にはカナカナが鳴いているかもしれない。

公園帰りに駅前のアピレに寄った。先日の浸水で地下食品市場へのエレベーターは故障中だ。食品市場のツルカメ屋のオリゴ糖は安い。しかし、商品棚は殆ど空になっていて見当たらない。探していると、空の棚の片隅に"8月16日閉店につき売り切りセール"と小さな張り紙があった。以前はレジに行列ができるほどに賑わっていたのに、赤羽駅ガード下のアルカードとの商戦に敗退したようだ。地下売り場は老人に嫌われるので、代わりに入居する店も苦戦しそうだ。

東京北社会保険病院下桜並木で、若夫婦が始めた八百屋も先月店を閉めた。
1年頑張ったが売り上げは伸びなかった。開店前に、買い物客の通行量を十分にリサーチすればこの結果はなかった。店が寂れ始めた頃、「買ってあげようよ。」と母が言っていたが、私は従わなかった。一度でも買うと、店主が挨拶したりして、必要ないものを義理で買ってしまうからだ。

閉店したシャッターに貸店舗の張り紙がある。目の前は病院下の公園とロケーションはとても良い。喫茶店も商店もダメだが、手芸教室ならお洒落な環境なので遠くから主婦がやって来そうだ。足の便は東京北社会保険病院行きのシャトルバスや通常バスが赤羽駅から頻繁に運行している。

母は一段と弱ったが、低空飛行のまま安定しそうだ。それは幾度となく繰り返したことで、私も母も短期間で慣れてしまった。慣れてしまえば母の気分は明るい。そうなれば私も気が楽になった。

Genkan

午後、氷水でシェイクした抹茶を飲みながらこの地上風景を眺めた。明るく穏やかで、心から平和だと思った。そう思えるのは母が明るくなったおかげだ。

私の仕事部屋は玄関脇右手にある。もし泥棒がこの雑然とした玄関を見たら入るのを躊躇するだろう。この調子では貴重品を探すのが大変だからだ。

ドラッグ絡みの事件が多い。赤羽でも薬物汚染は早くからあった。母が倒れる前、深夜にビデオ屋や終夜営業の喫茶店へよく出かけていたが、その頃すでに、ドラッグハイになって嬌声を上げている若者たちが徘徊していた。

厭なことがあった時、なぜ酒や薬物に頼るのか理解に苦しむ。私は絵を描いていればどんな状況でもハイになれる。絵描きの多くが逆境に強いのは、そのせいかもしれない。

Ma_3

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