母は危うく寝たっきりを免れた。09年9月17日
朝食後、母はベットに横になった。後片付けを済ませ、散歩に連れ出そうと呼びに行くと、
「きつくて起きられない。このまま横になっている。」と、母は頑として起き上がらない。しかし、いつものように起床し食事も完食した。私に用を言いつける声も張りがあり、弱っているように見えない。「いつもの欝か。」と思いながら、強壮ドリンクを飲ませて様子を見た。成分のカフェインが神経を刺激して、いつもならそれで元気になる。しかし、今回はまったく効果がない。
「それじゃ、病院へ行って診てもらおう。」
そう言って、無理に起こして着替えさせ、玄関へ抱えるように連れて行って車椅子に座らせた。外は涼風が心地良いが、母は寒いと訴える。すぐに毛布でくるみ、体温計を持って来て計った。もしかして新型インフルエンザではと案じたが平熱だった。
「身体に異常はない。」と、強引にエレベーターへ押して行くと、
「散歩へは出ない。ベットに寝ておく。部屋へ帰して。」
母は駄々っ子みたいにごね続けた。
14階から下りて来たエレベーターに女性の先客がいた。
「涼しくなって、気持ち良いですね。」
先客は母に挨拶した。
「本当に良い季節ですね。」
母は仕方なく挨拶を返した。
住まい前の環八横断歩道で信号待ちをしていると、近所の知り合いが通りかかった。
「お元気そうですね。」
彼女はにこやかに近づいて来た。
「今日は機嫌が悪くて、散歩に出ないと散々ごねていました。」
彼女に出がけの経緯を話した。
「おや、珍しい。千代野さんにもそんなことがありますか。」
彼女は信じられないと母の手を取った。母は照れ笑いしながら、モゾモゾ何か言い訳していた。
「少しなら散歩しても良いよ。正喜の言ったことは正しい。私はとんでもないことを言ったようね。」
知人と別れた後、母が言った。もし、世話をしているのが嫁さんなら、年寄りに抵抗されたら、そっと寝かせておくだろう。しかし、高齢ではいくら寝ても疲れは取れない。むしろ、寝れば寝るほど疲労は増し、筋力が急速に低下して寝たっきりになる。母は近所を一回りするだけと思っているが、このまま赤羽自然観察公園へ連れて行くことにした。
途中、東京北社会保険病院に胆石手術で入院している床屋さんを見舞った。
床屋さんは、その前に民間専門病院にかかっていたが胆石は見つからず、胆嚢炎と診断され内科治療を受けていた。しかし、不審に思った床屋さんは、セカンドオピニオンとして東京北社会保険病院を選んだ。CT検査をすると胆石が見つかり、腹腔鏡手術で大小14個の胆石が除去された。
個室で退屈していた話し好きの床屋さんはとても喜んだ。
彼は前日手術をしたばかりだが、医師に歩くように言われている。母も6年前、肝臓ガン手術後、集中治療室を出るとすぐに歩くように言われた。昔と違い、今は術後、体力があるなら、少しずつ歩くことになっている。ことに高齢では、寝たっきり防止に努めて歩かされる。
出かけの経緯を床屋さんに話すと、母は「お恥ずかしい。」と照れていた。
--写真。緑道公園から都営桐ヶ丘団地を遠望。右手に給水塔。桐ヶ丘では格好の目印になっている。
病院から出ると、一気に赤羽自然観察公園まで車椅子を押して行った。
公園で母はいつもの距離を歩いてくれた。年寄りは精神的なことで急速に弱る。しかし、それは回復できない身体の弱りではなく、慎重に判断した上で連れ出すと見違えるように元気になる。もし、朝の母の態度を真に受けていたら、二度と散歩へ連れ出せなくなっていた。
「家の中で寝て青白くなっているより、少々辛くても、青空を見上げたり風を感じたりする方が楽しいだろう。」
帰り道、母に話すと、「その通りね。馬鹿なことばかり言って、危ないところだった。」と、しきりにうなづいていた。
帰宅して、休んでいる母にクルミを持たせた。手の刺激を始めてから、兄に書く葉書の字がとてもしっかりして来た。更に、頭もしっかりしてくれれば有り難い。しかし、母の体力は間違いなく落ち、終末に一段階近づいた。これからは慎重に対応しなければと思った。
写真は散歩途中で摘んだヤマボウシの実と、赤羽自然観察公園で拾った椎の実と古い松かさ。ヤマボウシは完熟すると、中身は熟し柿のようにトロリとする。
完熟前はシャーベットのようにサクサクした食感で、これも美味しい。
初物の椎の実は早速煎って食べた。香ばしくて仄かに甘くとても美味かった。
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