新しいミシンを見て、弱っていた母は一瞬元気になった。10年6月20日
母は昨日以上に弱り、朝から殆ど喋らなかった。最低限の脚力は保っているが、バランスが悪くて膝が抜けるので介助は難しい。近く、訪問リハビリを家庭医に相談することにした。--介護保険では、訪問リハビリは医師の承認がいる。
リハビリは専門家に任せた方が良いが、長期では費用がかさむ。母へのリハビリを眺めて覚え、その後は私が施すことにした。
体重のある母を抱えるのは腰を酷使する。ぎっくり腰に注意していたら、忘れていた鼠径ヘルニアを悪化させてしまった。一難去ってまた一難だ。鼠径ヘルニアは簡単な手術で治るが、その後しばらく力仕事ができない。それでは母の体調を更に悪化させてしまう。それで、力仕事のときだけズボンの上から下腹にベルトを締め、タオルを挟んで飛び出しを押さえた。これでしばらくはしのげそうだ。
朝食後、母は死んだように寝ていた。それでは弱る一方なので無理に起こし、お昼前に何とか散歩へ連れ出した。
家では何に対しても無反応だった母が、外で顔馴染みに会うと以前のように明るく挨拶を交わした。この効能を思うと、母の散歩は止められない。
上写真。
東京北社会保険病院庭のネジバナ。
中写真。
私と二人だけの時は、母は魂が抜けたようだ。
右奥の木はヤマモモ。
下写真。
まだ若いヤマモモの実。
あと10日ほどすると、濃紅色に熟して食べごろになる。
酸味が強い果物だが、塩水に漬けて食べると、香りが良くとても美味い。
午後、注文していたミシンが届いた。シンプルな機能で、フットコントローラー付きだ。ミシンは直線縫いとジグザグとボタン穴かがりだけできれば良い。
それまで使っていたミシンは、30年前に10万で買った。代金はテレビ局の手芸展に応募した"変わり雑巾"で賞を取り、その副賞10万をあてた。
始めミシンは快調だったが、10年ほど使っていると糸目が跳ぶようになった。それで、池袋の代理店に修理を頼んだ。
やって来た老技術者が30分ほどかけて分解し調整すると新品同様になった。代金は2000円だった。
「ミシンは調整を定期的にすれば一生ものです。」
それなのに、最近、修理をする人が少なくなったと彼は嘆いていた。
それから10年過ぎて、再度おかしくなったが、すでに台湾メーカーが市場を席巻し、池袋の代理店はなくなっていた。以来、すぐに故障するミシンを使うのは面倒になり、手縫いで済ませた。
しかし先日、母の寝間着を手縫いで直しながら、ミシンが必要だと思った。絵描きは仕事でミシンを使うことが多い。今まで、額や立体作品を入れる袋は自分で縫っていた。それで意を決し、通販で日本メーカーが台湾で作った3万円の安物を買った。貨幣価値の変化を考えると、古いミシンの10分の1の感覚だ。これでは、日本メーカーが国内生産で生き残るのは無理だ。
新しいミシンは古いのと基本は同じだ。違いは下糸のボビンが水平釜になり、針糸通しが付いている。
「これなら糸通しに苦労しないよ。今度、使ってみな。」
ベットの母に見せると、嬉しそうに目が輝いた。手芸好きだった母は身体が弱ってから何もしなくなったが、好きなものを目にすると今も元気が蘇るようだ。その後、起きると言うので、夕飯まで車椅子に座らせておいた。新しいミシンを見て元気になった母は、食事中、声を出して話すようになった。
しかし、元気はつかの間で、夕食後は「龍馬伝」も見ないで死んだように眠っていた。そんな母を見ていると、「もし、私が入院しなかったら、母は今も元気なのに。」と後悔にさいなまれた。こんな時、宗教心の篤い人なら「すべては神の思し召し。」と受け入れてしまうのだろうが、私には難しい。
ふいに、4月30日に死去した絵描き仲間の宮トオル氏のことを思い出した。今際の際 、彼は一筋の涙を流したと夫人に聞いた。彼もまた、様々な後悔や悔しさが去来していたのだろう。老年期に入ると死が身近すぎて、母だけでなく姉兄や友人達の死を、そして自分の死をたえず考えてしまう。
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