母は弱ったが、この夏もクーラーなしで過ごすことにした。10年6月18日
蒸し暑い。東京北社会保険病院下の公園へ入ると冷たい風が吹いていた。樹木の冷房効果はすばらしい。
母は私が手伝っても立てなくなった。足の筋肉が痩せて、立たせてもガクリと膝が落ちる。立てない母を抱え上げて、車椅子に乗せるのはとても大変だ。それだけではない、トイレ介助も難しくなった。
急に弱ったのは、ベットに横になっている時間が長くなったのと、暑さのせいだ。今朝も、母を起こすと、寝間着が汗で湿っていた。
--後日分かったことだが、寝汗は心不全を起こした為に、脳から血管を広げる指令が出て、その時同時に汗腺も開いて汗をかいたものだった--
散歩をしながら、クーラーを入れるべきか悩んだ。
母が今まで、真夏も散歩を続けられたのは、クーラーなしで過ごして来たからだ。13階は風の抜けが良く、この階の殆どの家庭はクーラーがない。それで去年の猛暑も耐えられた。
母の筋力回復を諦めた訳ではない。重心のバランスを工夫すれば、身体の移動は可能で、まだ散歩は続けられる。老人は散歩を止めると二度とできなくなる。赤羽自然観察公園へ行っていたころ、夏になると殆どの高齢の老人は来園を止め、秋になっても姿を見せなかった。家庭のクーラーに身体が慣れ、外の猛暑に耐えられなくなったからだ。来園しなくなった老人の多くは、そのまま寝たきりになったと聞いている。
散歩中、どうすれば寝たきりを避けられるか考え続けた。外へ出て自然や街や人とふれあうことは、母にとって生きている証だ。もし散歩ができなくなったら、半分死んでいるのと同じになる。
QOLの可能性を捨てないために、クーラーは断念した。その代わり、毎日、牛黄主成分の長城清心丸と漢方の強壮ドリンクを飲ませることにした。それらは強心効果があり、母の体質に合っている。それらで、これからの猛暑を乗り切ってくれるはずだ。安い薬ではないが、高価で維持費のかかるクーラーより費用対効果は優れ、母は人間らしく生きて行ける。
写真上。東京北社会保険病院下。
この後、母を手摺に掴まらせ、立たせようとしたが無理だった。
その後、駅前に出て、仏壇の花を買った。
帰りの緑道公園でサクランボがたくさん実っていた。
食べてみると、とても豊潤な香りで甘い。
小粒なサクランボの野生種だが栽培種に負けていない。10粒ほど食べると、濃いアントシアニンで口の中が濃紫に染まった。
「どおだ。」と、その口を開けて母に見せた。
「気色が悪い。」
母は顔を背けたあと、楽しそうに笑った。
最近、母は弱ったせいで笑顔が少なくなった。深夜に起こす回数が減ったのは助かるが寂しい。
食欲も激減して、さかづき一杯ほどのごはんを、やっと食べている。栄養不足になるので、エンシュア・リキッドやプリンなど、液体の食物でなんとか補っている。
母は先日まで、いつも子供のころの思い出を話していた。あれは自分の残り時間が少ないと感じていたからだろう。その思い出話しに出て来る人の中で、生き残っているのは母だけだ。それを思うと、母が更に生き続けるのは難しい。
最近、朝ドラの「ゲゲの女房」を時々見ている。終戦後の貧しい時代をよく知っているので、とても懐かしい。当時の貧乏マンガ家は、今の絵本作家の事情ととても似ている。今、絵本作家希望の若者は多いが、「ゲゲの女房」のマンガ家同様に生活が厳しいとは知らない。殆どは、流行作家のように好きなことをして優雅に暮らせると思っている。
新人は、たとえ良い作品ができても版元に認められるのはとても難しい。出版不況に少子化の今、出るのはヒットした旧作の刷り直しばかりで、滅多なことでは新作は世に出ない。私が最初に絵本を出した20年前とは大きく状況が変わってしまった。
仮に難関を突破して絵本が出たとしても、初版の印税は1ヶ月分の生活費にも満たない。他にメインの収入源がない限り、生活するのは不可能だ。
しかし、表現力が優れた電子書籍が登場して、一般化すれば絵本作家の状況は大きく変わる。ハードもシステムも改良の余地があるが、ipadの登場にその可能性を感じている。
すでに、反射光で表現されるキンドルでは、マンガや小説が版元に頼らずに個人で出版がされ始めた。これから版元はますます苦しくなるが、ソフトを供給する作家には良い時代が来そうだ。
「ゲゲの女房」のころの貧乏は今とまるで違っていた。当時の日本は若く元気で希望にあふれていた。
当時、私は子供向け月刊誌「少年」の手塚治虫「鉄腕アトム」に夢中だった。
その次の連載ヒットマンガ「鉄人28号」は私の後世代で、親しみは薄い。当時の水木しげるの妖怪ものは貸本専用だったので残念ながら知らない。私の育った日南市大堂津には貸本屋がなかった。
その頃、我が家は父が事業に手を出しては失敗し続けていた。いつも借金取りに追われていたが、母も私もあの貧乏時代を懐かしく思い出す。当時の我が家は子供たちや食客たちの大家族で、いつも騒々しくて楽しかった。あの元気は今の中国や新興国にとても似ている。
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