絵描きをもてあそぶ老人コレクターたちへの楽しい反撃。12年6月9日
先日少し触れたが、銀座での個展はとても楽しい。
会期中には画廊巡りを老後の楽しみにしている金持ち年寄りたちが必ず顔を出す。彼らはバブルにも無傷の勝ち組で、例えば都心の一等地に貸しビルを数棟もって悠々自適の老後だ。そして昔、安かった頃に書画骨董も買い集め、一応コレクターと呼ばれている。
彼らは先行きの分からない新人の作品は絶対に買わない。彼らが買うのは価値が目減りしない有名作家の作品だけだ。買った作品は自宅に飾らず美術品専用倉庫に預け、チャンスがあれば転売する。彼らはそのポリシーでバブルも生き残った訳だ。
だが、新人絵描きたちは老人たちの買いそうな素振りにコロリと騙される。揉み手でお世辞を言ったりする絵描きの卵をあしらうのが彼らの楽しみである。
私は、彼らが来ると暇つぶしに付き合ってあげる。
昔、皿絵を展示した時だ。
「丸い形で号数がわからないが、どうやって値段を決めるんだ。」
コレクター老人が尊大に聞いた。
「さすがお目が高い。丸い作品は重さで値段を決めます。私の皿絵はグラム400円ですので銀地金より高いです。」
銀地金より高いに老人は反応し、ほほーとえらく感心していた。
私の技法はハッチングで、髪の毛くらいの細い線を交差させて陰翳を描く。
彼らはその技法も必ず質問する。
「さすがお目が高い。これは塗りつぶした絵の具をダイヤモンドの針で引っ掻いて描きます。だからコストがとてもかかります。」
あるいは、
「特注の1万円のセーブルの面相筆で描きます。面送筆は激しく動かしますので穂先きが熱を帯び焼け切れ、1号あたり1本を使い潰します。だから、20号なら筆だけで20万はかかる訳です。」
勿論、そんな高い筆は使わないし見た事もない。焼けきれるのも冗談だ。
20号の絵で実際に描き潰すのは400円のナイロン製面相筆を1本くらのものだ。
しかし、彼らはダイヤモンドの針や1万円の面相筆に反応して作品の価値を判断する。
私がよく使うコーラルピンクへの質問もある。
「さすがお目が高い。これは世界で沖縄近海だけで採れる貴重な珊瑚を、1年がかりで粉末にして作ったコーラルピンクです・・・買えばグラム5000円と金より高い絵の具です。」
珊瑚も口からでまかせだ。コレクター老人たちに芸術は通用しない。「さすがお目が高い」の枕詞と、グラムいくらとか1本いくらとお金に換算すると初めて絵の価値を理解してくれる。
個展ではないが、先日、知人に紹介された老人もそのような成金コレクターだった。彼は都心に数棟貸しビルを持ち、その一つで画廊と画材店を経営していた。
彼は都心にある豪壮な億ションの豪華な応接間に招き、国際的な巨匠の名を次々とあげて、オレお前の関係だと得々と話した。
そして、「自分の気に入る絵を描くなら無制限に買い入れてやる。必要な画材は店にいくらでもあるから、好きなだけ持って行け。」と、貧乏絵描きならすぐに食いついてしまう話しをした。
私は去年の震災以来、外出時はいつも非常用品を入れたリュックを背負っていた。
「幸い、ここにリュックがあります。これからお店へ行きますので、詰められるだけ絵の具を下さい。」
早速、私は好意に甘えることにした。すると老人は大慌てで話題をそらした。勿論、私にその気は皆無で、ちょっとからかってみただけだった。
彼が買い上げると言ったのは、富士山とか花鳥風月のたぐいで、描く気がまったくない絵ばかりだ。そんな絵を描くために絵描きに転向した訳ではない。お金が欲しいのなら、元々経営の才能はあり、企業家の受けも良く、金持ちへのチャンスは無数にあった。
後日、絵描き仲間たちにこのことを話すと、何人もが同じ申し出を受けていた。しかし、老人の言葉通りに実行してもらった者は一人もいなかった。彼もまた、前回書いたコレクター老人と同類で、若い貧乏な絵描きたちを、もて遊ぶのを老後の楽しみにしていたようだ。
日本のコレクター老人の大半はその部類で、世界に類のない文化を作り上げた江戸の金持ちたちの足元にも及ばないゲスぞろいだ。
画像は個展用に制作途中の絵皿で、桐に似た軽い素材をロクロで挽いてもらい、キャンバス地を貼り込んだものに描いてある。
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