子供の頃は1日がとても長かったが、今は一瞬で終わる。12年7月31日
日中の室温は32度だが、部屋を吹き抜ける風はさらりとして心地よい。散歩は日が陰ってから出かけた。黄昏の公園の外灯が美しい。以前は今ほど美しいと思わなかったが、母の視覚が私に乗り移ったようだ。
車いす生活になった頃から、母は腎機能が弱り日中の尿量が減った。その分、夜間に頻尿になるのが辛いと言うので、よく、車いすで住まい近くを一周して、尿の出をよくさせていた。車いすで全身が揺らされると腎臓の血流が増し、気持ちよく尿が出ると母は喜んでいた。
だから、夕暮れに二度目の散歩に連れ出すことが多かった。夕暮れの散歩では外灯を眺めるのを母は楽しみにしていた。その母の楽しみを今、私は受け継いだようだ。近くに新河岸川と荒川があるので、夕暮れには涼しい風が吹き、心地よい散歩だ。
この数日、黄昏の空に月がぼんやりと浮かんでいる。この頼りない光に自分の未来や死を感じる。死は闇に例えられるが、むしろぼんやりした光に近いと思っている。
そんなことを考えていると、不意に子供時代の夏休み、みんなで線路を歩いていた記憶が蘇った。田舎の鉄道は滅多に汽車は通らず、子供たちの遊び場の一つだった。
列車がまき散らす鉄粉が砕石と枕木に茶色に錆び付き、土手の夏草からは陽炎が立ち上っていた。ピカピカ光る焼けたレールをバランスをとりながら歩い記憶が昨日のことのように瑞々しく蘇る。
子供時代は時間はとてもゆっくりと流れていた。
ちょうど今、まだ夏休みが1ヶ月も残っていると頭の芯がしびれるほど嬉しかった。
漁師町の子供たちは朝5時には起きて、朝食を済ませると神社に掃除に行った。境内に適当に帚目をつけて掃除を終えると、ラジオ体操までチャンバラをして遊んだ。体操の終わると家に帰って着替え、朝7時には海へ行った。
海で遊ぶのはお昼までで、午後は近所の野山を駆け回って遊んだ。勉強や夏休みの宿題をした記憶はまったくない。
今思うと、子供の1日は今の私たちの1週間ほど長かった。だから、子供時代の10年は人生の半分ほどを占めるほどに大きく感じるのかもしれない。
老いてからは時間が過ぎるのがとても早い。80代の10年は60代の2,3年の感覚で過ぎて行くようだ。
「もう1日が終わる。早すぎて嫌になる。」
晩年の母は夕暮れになると、いつもそう言っていた。
個展に自然公園での仲間たちが来てくれた。
公園の常連の消息を聞くと、多くは亡くなったり、弱って外出できなくなっていた。
母は8年間、私が車いすで連れて行ったので老人としては長く散歩に出かけられた。しかし、多くの老人たちは2,3年で自然公園を卒業し、旅立ったり寝たっきりになっていた。
彼らを眺めていると、老い始める境目は70〜75歳あたりにあるようだ。それを過ぎると急速に弱って行く。だから、今を目一杯生きなければと思っている。
新しいMacは画像処理はタフで重いデータを楽々こなす。しかし、それ以外は厄介な作業が旧Macより増えた。ことにメールの自動設定に不備があり、昨日からぶっ続けで試行錯誤を繰り返して、複雑な手作業をして夜明けにようやく正常に働くようにできた。
この4日間、毎日20時間は立ち上げ作業に没頭していた。おかげで今日は首筋がこっている。その症状には葛根湯が劇的に効く。飲んでから夕暮れの散歩に出かけると、帰宅する頃には忘れたように治っていた。
画像は「何処へ」
自分がどこへたどり着こうとしているのか分からず、漠然とした不安の中で描いた。
作品は受賞し、サッカー監督のトルシェが買い上げて母国の母親にプレゼントした。
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