人生の最期の、死を間近にした患者が抱く五つの後悔。12年9月3日
医療関係の知人から紹介されたネットの記事だ。
それは、人生最後の緩和ケアに携わったオーストラリアのナースの調査に基ずく。
彼女によると、死の間際に人間はしっかり人生を振り返ると言う。そのトップ5の後悔は我々日本人にも共通するものだ。
「他人に望まれるように、ではなく、自分らしく生きれば良かった。
そして、仕事に時間を費やし過ぎず、もっと家族と一緒に過ごせば良かった」
「もっと自分の気持ちに忠実に生きる勇気を持ちたかった。
感情を殺していた結果、可もなく不可もなく終わってしまった」
「人生最後の数週間に友人の本当のありがたさに気がついた。
様々な経緯で連絡が途絶えてしまったかつての友達をしきりに思い出す。
もっともっと、友達を大切にしておくべきだった」
「もっと幸せを目指すべきだった。死の間近になって、やっと幸せは自分で選ぶものだと気づいた」
「既成概念に縛られた人生を快適と思ってしまって、自由な生き方ができなかった」
私は上記5項目総てを実行している。しかし、それでも最期に後悔すると思っている。
もしかすると、後悔を恐れずに生きるのが最良の生き方で・・・自分にとって良きも悪しきも全てを受け入れるのが、後悔しない生き方なのかもしれない。
いずれにせよ、最期の思いはとても深く重い。誰もが、今すぐに、生涯考え続けなければならない問題だ。
2日、日曜の朝は涼しかった。
玄関を開けると、雨を降らせ終えた雲が広がり、清澄な青空が見えた。
階段を下りて、誰もいないエントランスを通ると空のエレベーターが下りてきてドアが開いた。一瞬、死んだ人の魂が下りてきたような気がした。そう思ったのは、母がキャスターで白菊会に運ばれて行ったエレベーターだったからだ。
新聞の小さな投稿にあった "老親が死ぬ前 にこやかに天井を見つめていた" の記述を思い出した。母も死ぬ2日前、にこやかに天井を見つめていた。
「何が見えるの」と聞くと「とっても奇麗」と答えた。
その時、母の酸素飽和度は極度に低く、苦痛を紛らわせるために脳内麻薬のエンドルフィンが放出され、心地よい幻覚が見えていたのだろう。
外へ出るとカマキリがいた。カマキリは強い虫なので逃げたりはしない。指先で触れると 「どうして・・」と不思議そうに見上げた。しみじみと見ると意外に無邪気な瞳だ。
水不足解消にはほど遠い僅かな雨だったが、公園のアジサイが生気を取り戻していた。椎、榧、カリン、今年はどれも豊作で秋が楽しみだ。
東京北社会保険病院の庭で、音楽を聴きながら休んだ。
パンパスススキが穂を出していた。キツネの尻尾のようなフワフワの白い穂の傍らで親子連れが遊んでいた。3歳ほどの女の子の拙い声が可愛い。長い年月が過ぎた時、親はこの時の幸せを繰り返し思い出すのだろう。
ふいに、母の車椅子を押していた頃を思い出した。当時は24時間、母の介護で疲労困憊していたのに、思い出すのは母の笑顔や明るく優しい声ばかりだ。
庭は病院併設の介護施設「さくらの杜」に面している。施設の個室からぼんやり外を眺めている老人が見えた。こんな私でも、老人たちからみれば幸せ一杯に見えるのかもしれない。最初に書いた人生最後の五つの悔恨が老人たちのうつろな表情に重なった。
青空が広がり強い陽射しが照りつけた。蒸し暑くなったので帰路についた。
陽射しの中を老人が杖をついて辛そうに歩いていた。もし長生きすれば間違いなく自分にも訪れる姿だ。心の中で老人と近未来の自分自身に「がんばれ」とつぶやいた。
誰もいない家に帰るのは慣れたが、今も小さな喪失感がある。それは生涯、強まることがあっても消えることはない感覚だ。親が生きていた頃が懐かしいのは、喪失感だけでなく今より若く元気だったからかもしれない。
母の部屋には母自作の人形が5体飾ってある。母が5人の子供に模して作ったものだ。早世した長兄の娘である姪が成人した時、長い髪を切って人形用に送ってくれた。一度も染めていない若い上質の髪で、母は特別の思いでその人形を作った。
真ん中の人形の兄は43歳で死に、右の姉は4年前に死んだ。これから先、私が保管できなくなったら、それぞれの娘たちに引き取らせ、自分の人形は燃そうと思っている。
螳螂の 淡き瞳に 秋の空
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