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2012年9月30日 (日)

死の二日前に流した母の涙の意味が仄かに分かった。12年9月30日

彼岸花が咲き始めた。桜が春を象徴するなら、秋の花は彼岸花だ。突然にあちこちに出現して、すぐに消える劇的な移ろいはとても似ている。

死後二年が過ぎたのに、毎日、終末期の母が流した涙の意味を考えている。生涯に母の涙を見たのは二度だけだった。だからことさら気になった。
一度目は死の三ヶ月前に絵が売れた時だ。何度も書いたが、それは私にとっても最大の生活危機だった。公団賃貸住宅の家賃を滞納し家庭裁判所から召喚状が来て万事休すと思っていた。生活費も乏しく、終末期の母を抱えてホームレスを覚悟したほどだ。

その時、偶然にブログで私の窮状を知った旧知のYさんが突然我が家を訪ねて来て絵を買ってくれた。
私はただ一行だけ「家賃滞納で家裁から召喚状が来た」とだけ書いただけだったが、苦労人のYさんには総て分かったようだ。

「Yさんが絵を買ってくれたから、もう生活は大丈夫だよ。」
彼が帰宅した後、母に話すと、気丈な母がベットの中で声を出して泣いた。
その頃「生ウニか、コノコか、ふぐ刺しを買って」などと母はお金のない私にノー天気なことを言って困らせていた。私は生活の大変さは何も話さなかった。しかし、母には分かっていたようだ。母は生活の行く末を深く案じながら平気を装っていたことをその時知った。先が長くない母に心配かけていたと思うと、私はすまなさで一杯になった。

Yさんは絵を買ってくれる裕福な知人を次々と紹介してくれて、半年は楽に生活できるほどのお金が入った。更に、私たちの生活を面倒見ます、と申し出てくれた地方の裕福な病院長のお嬢さんもいたが、こちらは感謝して丁重にお断りした。

この母の涙は理解しやすかったが、死の二日前に流した涙はよく分からなかった。
その日の午後、様子を見に行くと母は天井を見上げたまま表情も変えずハラハラと二筋三筋涙を流した。私は黙ってタオルで涙を拭いた。涙はすぐに止まり、母はそのまま天井を見上げていた。

母は八十代半ばまで背筋はまっすぐで姿勢が良かった。しかしその後、少しずつ腰が曲がり、九十歳直前に激痛を訴えるようになった。診断では脊柱の骨が五個圧迫骨折していた。激痛は脊椎の硬膜外麻酔のペインクリニックで収まったが、それ以降母は車椅子生活になった。

腰が曲がってしまった母は長い間、仰向けに寝ることができなかった。
それが、死の三日前から背筋が伸びて仰向けに寝ることができるようになった。長身だった母の腰が伸びると老人向けの小さな介護ベットは窮屈になった。
腰が伸びれば圧迫骨折した箇所がバラバラに隙間が空いて、母は二度と立ち上がることも腰掛けることもできない。その時、母は生き甲斐だった車椅子散歩に二度と復帰できず、完全な寝たっきりに追い込まれたと悟ったようだ。

その時、母の脳裏に過ったのは楽しい過去の思い出だったと思っている。
母が元気な頃、黒部、志賀高原、裏磐梯、奥秩父、八ヶ岳と各地へ連れて行った。母はその思い出を終末期まで楽しそうに話していた。涙はそのような楽しい思い出との決別の涙だったのでは、と今仄かに思っている。
それから二日後の死まで、母は二度と涙を流さず、時には微笑みを見せて旅立って行った。

母の死の二ヶ月前に親しくしていた画家が急死した。彼が死ぬ前日、母と同じように天井を見つめたまま一筋ハラハラと涙を流したと未亡人に聞いた。その時、彼は母と同じように死を悟ったのだろう。

次に私が死ぬ時もきっと涙を流すと思っている。その時に友人や母の気持ちが本当に分かるのかもしれない。その答えは誰にも伝えられないが、多くの先人が辿ったのと同じ道を行く安堵感があると信じている。

人生の秋にさしかかり、もの思うことが増えた。今、先に逝った人たちが残したものを思い起こすと深い救いを感じる。

 付け加えて・・・
脳科学の東邦大学有田秀穂名誉教授によると、一度泣けば一晩眠ったのと同じだけのストレスを取る効果がある。

それに関連して「涙活」と呼ばれる健康法がある。
週に一度、哀しいドラマなどを見て泣くと体調が良くなる。
デート前に泣いてから出かけると表情が優しくなってデートが巧く行く。
試合前の選手は泣くとリラックスして実力が出せる。
重要な会議で緊張する人は、その前に思いっきり泣いておくと巧く行く。
だから、辛くて悲しい時は我慢せず思い切り泣くといい。


画像「秋」

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