寒い雨、相模大野の女子美祭は言葉の通じない変な世界だった。12年10月29日
日曜は肌寒い雨の中、版画家の菊池君と相模大野の女子美祭へ行った。陶製オブジェ作家の大学院生に会うためだ。
小田急の急行で新百合ケ丘駅で下車して彼に電話を入れ、次駅の柿生駅ホームで待ち合わせた。肌寒い日だったが、電車が暑かったのでホームが心地よかった。
15分ほどでやって来た菊池君と相模大野へ向かった。この街には昔小説家の知人がいて、よく遊びに行っていた。
女子美行きの直行バスで住宅地を20分ほど行くと公園のように美しい女子美の敷地に着いた。
入り口の案内で地図を貰って展示会場のある建物に着いたが展示室がどこなのか分からない。受付はいるが何を聞いても知らない。仕方がないので中へ入りそれらしき展示場を見つけた。しかし、会場受付も出品者一覧がないから分からないと言う。この大学は女子美祭のシステムや人員配置を系統的に整理して客を迎える気が全くないようだ。大学のホームページも日時場所がさっぱり分からず、それを解釈するのに苦労した。
二人で右往左往しながらやっと会場に辿り着いて彼女を見つけ、30分ほど雑談して出た。作品は写真で見るより本物はずっと良かった。
次は菊池君の知人の展示室を探した。またしても、どの受付に聞いても何も知らない。構内をお洒落な女の子が沢山歩いているが、彼女たちは自分が何をしていて何をしようとしているのか分かっていないようだ。何だか言葉が通じない変な国へ紛れ込んだ気分がした。
菊池君の友人の陶芸家は以前女子美祭へ行ったが、二度と行きたくないと話していた。その意味をその時ひしひしと感じた。
5時に会場を後にするころは雨は本降りになっていた。バスを待つ間、大学に隣接する公園を眺めた。夕暮れの雨の緩やかな丘のクヌギ林。枯れ葉に覆われた秋の風情に疲れた心が少し癒された。
帰りのバスは満員で市内に近づくと渋滞にかかって駅まで40分かかった。
空腹なので、菊池君の地元柿生のトンカツ屋へ行った。店のアルバイトの女子学生たちはどの子もキビキビしていて、冗談を言っても反応が良かった。彼女たちと女子美の学生は鮮烈に対照的で、やっと真っ当な世界に戻って来た気がした。
菊池君の奢りで特製ロースかつを肴に生ビールを飲んだ。ここは先代が養豚業の傍ら副業として始めた地元評判の美味い店だ。この一週間、睡眠不足が続いてストレスも多かったが、美味いトンカツと酔いと彼との馬鹿話しに次第にくつろいで行った。
10時前に北赤羽に着き、明日の食材を買って帰宅した。疲労が噴出し、横になるとすぐに爆睡してしまった。
赤羽は坂の町だ。緩やかな谷を埋めるように家並みが広がる。夕暮れ、買い物帰りに東京北社会保険病院への坂道から家並みを眺めると、遠い夕空との境に海を感じる。海辺で育ったせいか海を感じると不思議に安らぐ。
それから、東京北社会保険病院の庭で一休みする。秋はススキの穂が出そろい虫の音が心地よい。
夕暮れ、傍らの介護施設さくらの杜の二階から老人が遠くを眺めていることがある。施設の夕食は早く、寝る前のひと時を彼はいつもそうやって過ごしているようだ。
彼はいつも五分ほど眺めてからゆっくりとカーテンを閉め奥へ消える。家族と離れての夕暮れ、どのような気持ちで遠くを眺めているのだろう。はっきりしているのは、そこは終の住処ではなく、彼の老いが進めば特養か老人病院へ移動させられることだ。
先日のススキが刈り取られる前、白と濃紅の穂を少し抜いた。最近、濃紅のすすきの穂が増えた。10年前までは白ばかりだったが、紫外線量の増加が原因かもしれない。
ススキの穂を手に病院庭の芝生を歩いていると、夕闇の中から近所のワンコが駆け寄って来た。中型の雑種でくわえていたボールを投げてくれと足元で尻尾を振っている。よだれでビショビショに濡れたボールを指先で掴んで芝生へ放ると元気よく追いかけて行った。
遅れてやって来た飼い主が挨拶をした。
「七月の個展にいけなくてごめんなさい」
律儀な人で、しきりに詫びていた。しばらく彼女と立ち話をして帰路についた。
ススキの穂は仏壇の花に加えた。母はススキの穂が大好きで、今の季節、車椅子で連れ出すと、いつも抜いてくれと言っていた。
画像「おじいちゃんのバス停」
山バスは 霧の中を スルスルと 進んだ
町ちかくでは イヌやネコたちが 乗ったり 下りたりした
山おくでは クマや タヌキや シカたちが 乗ったり 下りたりした
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