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2012年12月24日 (月)

Eテレ地球ドラマチック・謎のアマゾンの民ピダハンに見る幸せの意味。12年12月24日

23日深夜、Eテレで謎の言語を持つアマゾンの少数民族ピダハンを見た。現代文明から隔絶され、自然と同化し、心豊かに暮らして来たピダハンの民。番組は彼らと長年にわたって暮らして来た元宣教師のアメリカ人言語学者ダニエルの目を通して描かれていた。

彼らの言葉には数の概念も過去や未来の表現もない。数がないのは富の所有の概念がないからだ。母親は子供の数を知らない。しかし、総ての子供の名前と特徴は知っているので何人いるかなど必要としない。自分の年齢も知らないから老いを悩むこともない。
色を表す言語がないのは、色彩感覚がないからではない。彼らに架空や抽象の概念は小さく、現実の植物や事象を表す言葉が色を直接的に代弁しているからだ。

過去から積み上げられて来た狩りの道具とその方法、住まいや什器と調理方法など生きる為の有用な知識はシンプルに受け継がれている。しかし、過ぎ去ってしまった喜びや哀しみの記憶の概念は小さい。明日の生活の不安がないので未来のことを恐れない。結果、彼らは過去を振り返ることも、未来を憂うことなく現在を充実して生きている。

彼らの境地は仏教の悟りにとても近い。彼らは特別の修行も勉学もせずに、生まれながらにその境地を身につけている。彼らの生き方は現代文明に対する強烈なアンチテーゼでもある。

ダニエルはピダハンの民にキリスト教を布教する為に家族と共に殉教覚悟で移り住んだ。しかし、文明に毒されていない彼らに宗教は不要だと知った。ピダハンの生き方を深く知った彼はキリスト教を捨て無宗教になった。熱心なキリスト教徒だった妻と子供たちはそんな彼から離れて行った。

番組は言語学者としてのダニエルが、世界的言語学者チョムスキーが唱えた普遍文法に疑問を呈していることを主軸に進行していた。言語学の世界では宣教師上がりのダニエルは売名目的の異端者扱いされてバッシングされていた。

ピダハンの言語には文法上の大原則リカージョン・・具体的には接続詞が存在せず単語と動詞が記号的に並ぶだけだ。彼らは鳥のさえずりのように口笛を言語として巧みに使いこなす。番組での狩りの場面では、頭上に獲物の猿がいること、素早く逃げようとしていること、それらを小鳥のさえずりのように口笛でコミュニケーションしていた。

例えば、耳・手・肌・外国人をピダハン語では総てイントネーションを変えた「アオエ」で表現する。同じ言語でそれが可能なのは、小鳥たちと同じよう発音の微妙な高低差を判別できるからだ。

彼らは我々と同じモンゴロイドだ。氷河時代、ベーリング海峡が陸続きだった頃にアジアから移り住んだ人類を起源としている。ピダハンの祖先は他の南北アメリカ大陸の原住民同様にチョムスキーが唱えた普遍文法を使っていたはずだ。

彼らが普遍文法と色と数と時系列の概念を捨て去ったのは、自然が豊かだったからだろう。色と数は生き残る為に文明が生み出した言語だ。文明なしで生きて行ける彼らはいつの間にがそれらが不要になったのだろう。

番組の後半、彼はマサチューセッツ工科大学の言語学の研究チームとピダハンを訪ねようとするがブラジル先住民保護機関から拒否された。管理官はダニエルが伝道師だったからと言っていたが、ダニエルを快く思わない言語学者たちが「彼は人種差別者だ」と裏から手を回した結果だった。

皮肉なことに、ダニエルが現地から離れている数年の間にピダハンの生活は大きく変化していた。子供たちはブラジル政府の援助で建てられた学校で公用語のポルトガル語を学んでいた。現地には発電機が持ち込まれて電灯にテレビ、水道のある住宅まで整備されていた。

彼らはテレビに熱中し、色と数と過去未来の概念が芽生えた。近い将来、彼らは我々が陥っている死や貧しさへの恐怖に悩み、宗教を必要とするようになるだろう。

ピダハンの言語を知っていたのはダニエルとその妻と前任の宣教師三人のみであったが、バイリンガルの子供たちがその代わりを務め、やがて、彼らもピダハンの言語を忘れるだろう。近年、これほどに文明の意味を問いかけ風刺した番組はない。


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クリスマスイブの東京北社会保険病院下。
私が生まれる遥か前に芽生え、私の死後も生き続けるこの古いエノキの太い幹を眺めていると不思議な感慨に捉われる。このエノキは人の悩みや幸せなど意に介せず超然と生き続けて来た。

どっぷりと現代文明に毒されている私には過去から未来への時系列は自分に課せられた大きな命題だ。ピダハンの民はこのエノキのように生き続けて来た。自然の恵みに喜び、恋をして子供産み育て、自分の死も自然の一現象として受け入れて来ただろう。しかし、ブラジル政府が与えた現代生活は確実に彼らを不幸にして行く気がしてならない。


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