2012〜13年・除夜の鐘 遥かな灯り 風寒し 13年1月1日
今年こそよそうと思いながら、一通りおせち料理を作ってしまった。他にも新春を迎える準備は多く、総て一人こなしているうちに疲労困憊してしまった。
12月30日は冷たい雨。姉が九州から送って来た食品を分けてもらいに来た。帰りは正月用品の買い物ついでに姉を赤羽駅まで見送った。途中、死の十日前まで母を連れて行っていた公園を通った。
「とてもいいい所なのね」
枯れた草原が雨に濡れ、オレンジに色づいて美しい。姉は感慨深げに草原を眺めていた。
その前日の29日は友人に招かれて、池袋でささやかな忘年会をした。
私は疲労気味だったので早めに切り上げ、10時ころに帰路についた。途中、停車した板橋駅のホームを眺めていると人の流れの中で突然喧嘩が始まった。30代と40代の男二人、ちょっともみ合って若い方が中年を殴った。酔っていた中年は枯れ木が倒れるように真後ろに倒れ後頭部をホームに激しく強打した。私は少し離れたドア付近に立っていたが「バギッ」と鈍い嫌な音が聞こえた。
「分かっているの。喧嘩を売ったのはあんたの方だからね」
若い男はかがみ込んで、中年の意識を戻そうと頬をパタパタと軽く叩いた。
しかし、反応はまったくない。視線は宙を見上げたまま体はピクリとも動かない。打ったのは後頭部の真ん中で即死もありえる危険な場所だ。気絶しただけとしても中年では重い後遺症を残すことが多い。すぐに人が回りを取り囲んだ。発車した電車から、呆然と立ち尽くす殴った男の後ろ姿が見えた。
二人ともサラリーマン風の普通の人だった。新年を迎えようとした年の暮れに、二人の男性の人生が変わる瞬間を目撃した気がした。あれから2日過ぎたが、その瞬間がスローモーション画像のように頭から離れない。二人の男性は「あの一瞬さえなかったら」「あの時、冷静に対処していたら」と生涯、後悔を繰り返すことだろう。大災害も交通事故もそのように一瞬で起きる。後悔した時は遅く、その直前までの平和な日常は絶対に戻ってこない。
画像は2012年大晦日の住まいからの夕日。元旦は好天になりそうだ。前日の雨がやんで陽射しが戻り暖かかった。
画像は不忍池。
夕暮れ、アメ横に買い出しに出かけた。昼間程ではないが、大混雑だった。
画像はアメ横のアダルトショップ。
客寄せの金ピカの男性像がとても面白い。多分、売れない現代アート作家の作品だろう。
帰りの高崎線の電車はアジア系外人ばかりだった。正月休みでアメ横に仲間が集まり、これからメンバーの部屋で年越しを楽しむのだろう。
大晦日の夜、毎年紅白は見ない。正月準備をしながらEテレで「第九」を聴いた。
その後は「ラララ♪クラシック」
天才少年ピアニスト牛田智大がゲスト。見た目は子供だが、礼儀正しく話し方も大人だ。
司会者が好きなことを質問すると、「最近、入浴剤に凝っています。新年はつつがなく過ごしたいと思っています」と答えた。その生真面目な姿がとても可笑しくて爆笑した。ふざけているのがお笑いと思っている芸人が多いが、究極のお笑いは生真面目さだと思った。
その後、牛田少年はプーランクの即興曲「エデットピアフをたたえて」を弾いた。弾き始めると力のある音で少年であることを忘れさせた。
2013年は巳年。
昔、自然に囲まれた家に住んでいる頃、1.5メートルほどのアオダイショウの脱皮を手伝ったことがあった。そこは真昼の道路で、早く脱皮を済ませないと大騒ぎになる。
頭から脱ぎ始めた皮をそっとつまみゆっくり脱がせてやった。おかげで一カ所の損傷もない目の形まで残した皮を手に入れることができた。脱皮した皮は縁起がいいので桐箱に大切にしまってある。久しぶりにそれを開けて虫除けの樟脳を取り替え、生活の安泰を願った。
その後、お屠蘇セットを出した。お屠蘇を容器に入れていると、早回しの動画のように父が屠蘇セットを買って帰ってから40年の歳月が次々と想い浮かんだ。
12時、玄関を開け外へ出た。荒川向こうの遠い寺院の除夜の鐘が聞こえた。地上はいつもより夜更かしの家庭が多く遠くまで灯りが点々と広がっていた。それぞれの家庭の幸せを想っていると、戸田あたりを終夜運転の電車が過ぎて行くのが見えた。
除夜の鐘 遥かな灯り 風寒し
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