免疫細胞が人体を破壊することで人は老い、老いと死を受け入れる為に古代文明は生まれた。14年4月8日
NHKスペシャル・人体・ミクロの大冒険-3にて、老いは免疫細胞・T細胞の不可解な動きによって起きていた。
人は何故、老いて死ぬのか・・人体に備わったシステムが命を保障してくれるのは生殖可能年齢までで、それを過ぎると、正常細胞は免疫細胞の防御システムの誤作動で攻撃され、成人病やガンに浸潤されて老いて行く。
T細胞は老いに対し重要な役割を果たしている。T細胞は骨髄で大量に作られるが、その大半は無用で有害で、本当に役立つT細胞は5%のみだ。それらの玉石混合のT細胞は胸腺で選別され、役に立たない95%は破壊される。
有用なT細胞を選別する胸腺は心臓の上方の胸腔内にある30〜40gの小さな器官だ。胸腺は思春期以降は萎縮して脂肪組織に変わる。胸腺が思春期以降に役割を終えるのは、人体が子孫を残すことのみを目的にしているからだ。人体は繁殖の用をなさなくなったら打ち捨てられる運命にある。
胸腺が役割を終えると老いは始まる。それなら、胸腺の機能を維持することで若さを保てるはずだが、そうはならない。T細胞の95%も破棄する作業は体への大きな負担で、いずれ人体を衰弱させて行くからだ。
T細胞は免疫システムの司令塔である。
システムでは免疫細胞の一つ樹状細胞が体内に病原体やがん細胞を見つけT細胞に持って行く。T細胞はその表面のアンテナでそれが有害か否か判断し、有害と分かれば攻撃指令物質であるサイトカインを放出する。すると、マクロファージが異物を攻撃し始める。
しかし、老いて誤作動を起こすT細胞が増えると、正常細胞を異常だと判断して攻撃し始め、動脈硬化や糖尿病など、あらゆる成人病を発症する。
T細胞が誤作動を起こすのは、異物を判断するアンテナがランダムに作られれているからだ。アンテナの種類は膨大で、その殆どは役に立たないか有害である。だから、時には健康な細胞を有害と判断し、マクロファージを使って痛めつける。胸腺はそれを防ぐために選別の役割を担っていた。
残っている正常なT細胞の働きを高めるには1日5分程の運動が役立つ。更に近未来では、ips細胞を使って人工的にT細胞を増やし、究極の若返りが可能になる。
そのようなT細胞の振る舞いを見ていると、人は元々長生きするように作られていないことが分かる。それでも人類は自助努力で長命を勝ち取った。だから、人類が努力を惜しめば、たちまちのうちに病んで老いて死んでしまう。
人が安定して食物を得られ、長命になったことで文明は生まれた。言いかえるなら、文明は人が神の意志に反して長生きするようになって生まれたものかもしれない。
人と動物の大きな違いは葬儀や埋葬をし、死者を悼むことにある。ネアンデルタール人は死んだ肉親を埋葬し野の花を手向けた。
ツタンカーメンの王妃アンケセナーメンは棺にヤグルマギクを入れた。古代から、人の家族は、老いた肉親を大切に慈しみ、死別すれば悲しんだ。それらの行為は人体が本来目指していたものとは大きく違う。人体が目指したのは繁殖のみで、老いた人体への処遇は冷淡だった。
今日は暖かく20度を越して、Tシャツ姿の子供もいた。新河岸川遊歩道の桜。
人類は長生きすることで、死後の世界にまで思いを巡らせるようになり、葬儀や埋葬の風習が生まれた。それは非情なくらいに合理性をそなえた人体の生理現象とは異質の心の世界だ。だから、埋葬や葬儀については民族によって大きく違う。
モンゴル族、例えばジンギスカンの遺体は埋葬した後、その地表一帯を数万の牛馬に縦横に踏ませて場所を分からなくした。
インドでは、火葬した遺骨をガンジス川に流し、墓は設けなかった。
チベット族は遺体を細かく切り分けて、小さな肉片まで、禿鷹などに食べさせて自然に帰した。
昔の日本では、よほど高位の者でなければ、土葬した後に木製の墓碑を立てるだけで、墓碑が朽ち果てれば墓地は自然に戻った。墓石を立てるようになったのは、近世に入り、人々が裕福になったからだ。
落語の好きな演目に「野ざらし」がある。
向島で釣をしていたら、しゃれこうべが釣れた。釣り人は哀れに思い、酒をかけ手向けの一句を詠んで弔った。すると夜中に美しい女が訪ねて来て、肩をもんだり世話をして帰って行った。
落語だからお笑いに展開する。長屋の壁に開けた穴から一部始終を見ていた隣室の八五郎は、自分も美人にあやかろうと骨釣りに向島へ出かけた。そして、ドタバタの末、骨を釣り上げるのだが、訪ねて来たのはむつけき大男だった・・・
噺の元ネタは中国明代に作られた笑い話しだが、日本でも河原に人骨が転がっていたのは珍しくなかった。江戸時代以前は京都の四条河原は遺体の捨て場所になっていた。その状況はあまりにも無惨で、時折、心ある僧侶たちがまとめて埋葬して供養し、地蔵菩薩を祭った。
今も、日本各地の町外れに地蔵菩薩が祭られている。大抵は寂しい荒れ果てた場所だ。そこは異界で、昔は遺体の風葬の場所だった。
風葬とは自然動物などに食べさせて自然に任せる葬儀の形態だ。だからその場所には死者を冥土に導く地蔵菩薩が祭られている。
先日行ったディズニーランドにも死をテーマにしたものが多くあった。ホーンテッドマンションは墓地そのものを、カリブの海賊は殺戮と拷問と遺体をテーマにしている。しかし、それらには禍々しさがなく、実に明るく楽しげだ。観客が死や墓地を楽しむ心理には、死を自然なものとして受け入れたい願望があるからだろう。
マークトゥエィン号が出航して間もなく、インデアン集落を過ぎると左手岸辺にバッファローの頭骨が並べられている場所がある。その中央に4本の柱で支えられた台があり、白い布に包まれた遺体が置いてある。
それはシベリア原住民が広く行っている風葬の仕方で、高い台に置いたのは遺体が獣たちに荒らされないためだ。その風習はユーラシア大陸からのモンゴロイド大移動とともにもたらされた。それらをしっかり描いていることにディズニーランドの凄さがある。
牡丹桜。
薄緑の桜、御衣黄。
赤羽台団地の壊された建物脇に生き残っていた。
カリンの花。
シャクナゲ。
現代に入り、再び自然葬に関心が広がっている。
生きることにコストがかかり過ぎて、遺族が墓地維持をできなくなっていること。
私のように一人暮らしで、遺族に期待できないことが大きな理由だ。
更に墓地埋葬法が緩やかになり、常識に反しなければ自然葬が認められていることも大きい。
しかし、遺骨と分かる形での散骨はダメで、微粉末にしなければならない。
遺灰にされても私有地や水源地などに撒くことは今も禁止されている。
遺灰はまったく無害だが、嫌がる人がいるので、そうなっている。
粉末にする器具は専門業者から1万5千円ほどで貸し出されている。
それは他人の遺骨が混入することを恐れ、自分で粉末にする人が増えているからだ。
私は彫金職人の頃、色上げ用薬品を粉末にする為、化学実験器具の専門店で15センチ径の乳鉢を買った。
母の遺骨はそれで少しずつ砕き、1ヶ月かけて微粉末にした。
その、毎日、丁寧に粉末にすることが、母との別れの儀式になった。
母と死別してから4年が過ぎた。
母は死ぬ8年前に肝臓ガンの大手術をした。体力は術後、衰えてそのまま寝たっきりと思っていたが、奇跡的に手術前の7割ほどまでに回復し、3年程は体力を維持してくれた。
しかし、それから死に至る最後の4年間は衰える一方で、母は近づいて来る死を強く意識していた。
その母の晩年の4年と比べると、今の私の4年間の衰えは小さい。創作能力に関しては進化しているくらいだ。しかし、これからはそうはいかない。母と同じように確実に衰えて行くはずだ。
祖母も母も父も、兄も姉も、皆恵まれた死を迎えている。祖母と父母は在宅で家族に看取られて死んだ。兄は中学教師として学校での公務中に急死した。姉はアパート自室の身の回りの品を総て処分して入院し、病院のベットで急死した。私から見ると、それらはどれも幸せな死だった。
先述の番組で、免疫細胞のコメンテーターとして出演していた山中伸弥教授は老衰で死ぬのが理想と話していた。彼のように十分な資産があれば老衰で穏やかに死ぬことができる。しかし、家族も財産もない者には大変な死に方だ。だから、死の寸前まで元気でいることを一生懸命に目指している。
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