荘子思想を七つの寓話に・・・「グーが来た」 14年6月4日
未来のことは考えたり計画したりせず、今起きていることに対して素直に行動すれば、生き生きとした人生を送ることができる。この荘子思想は、疲れた現代人の救いだ。
苦悩は、ものごとを比較し、人生設計などで縛り付けることから生まれる。
荘子はグダグタになすがままの受け身の人生を薦めている。
「グーが来た」は荘子の「胡蝶の夢」を基軸に七つの寓話にしたものだ。
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グーが来た
-眠れない夜のための七つの寓話- 篠崎正喜 絵と文
遠い星からグーがやって来ました。
「グー グー グー」
それは子守唄のようにやさしい声でした。その声を聞くと、動物も魚も草も木も、建物も車も、船も飛行機も気持ちよく眠って、不思議な夢を見ました。
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第一話
牛たちは毎日、草を食べ、昼寝をして、ダラダラ過ごしていました。 牛たちは、そのような毎日に飽き飽きしていました。
「メタボになってもいいから、朝昼晩、美味しいものばかり食べて暮らしたいな」
牛たちはいつも贅沢ばかり夢見て、不満を言いあっていました。
ある日、グーがやって来ました。
「グー グー グー」
その声を聞いた牛たちは気持ちよく眠りました。
そして、美味しい食べ物を腹一杯食べて暮らしている夢を見ました。
でも、憧れていたほどに楽しくはありませんでした。
牛たちは夢から目覚めました。
目の前の草原は いつものように風にサワサワとゆれていました。
牛たちは背伸びをして、草を食べ始めました。
「ただの草だけど、なぜか、これが一番美味しい」
牛たちはいつものように草を食べ、昼寝をして、ダラダラと幸せに過ごしました。
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第二話
誰も彼も 休まず、毎日毎日 長い時間 働き続けて、みんなの心は荒み、疲れ果てていました。
ある日、グーが現れました。
「グー グー グー」
グーの声を聞いたみんなは
気持ちよく眠りました。
そして、草木に覆われた町の夢を見ました。
みんなが目覚めると、
今まで、何のために働き続けたのか、分からなくなっていました。
みんなは、これからは明日のことは考えず、あくせく働かず、のんびり、その日暮らしをすることにしました。
やがて、町も道も草木に覆われ夢と同じように古ぼけてしまいました。
でも、古ぼけた町は、とても住み心地が良くて、みんなは幸せに暮らしました。
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第三話
寒い雨の中で女の人が電車を待っていました。
彼女は寒い雨が大嫌いでした。 仕事は失敗したり、しかられたり、嫌なことばかりでした。好きな人との恋もうまくいかず、とても疲れていました。 それでも、いつもの電車に乗って仕事へ出かけようとしていました。
その時、雨空にグーが現れました。
「グー グー グー」
グーの声を聞いた彼女は、立ったまま、一瞬、眠りました。
彼女は軽やかな風になった夢を見ました。
風になった彼女は、草花を揺らし、雲をくぐり抜け、自由自在に空を飛びました。
彼女は電車の音で目覚めました。相変わらず、寒くて嫌な雨が降り続けていました。
しかし、目覚めた後、いつもと何かが変わったように感じました。信号灯や家の明かりが花模様のように雨ににじみ、雨に濡れた木々は とても みずみずし見えました。
「今まで、どうして、雨景色のすばらしさに気づかなかったのだろう」
本当は自分はとても自由なかもしれない、と彼女は思いました。
彼女は電車に乗って仕事へ行くのはやめて、歩き始めました。
いつの間にか雨雲は去っていて、夕暮れの光が射していました。
「どうして、嫌なことばかりに大切な人生を費やしていたのだろう」
さわやかな風の中で、彼女はそんなことを感じていました。
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第四話
海の魚や船やクジラたちは、毎日、海にいることに退屈していていました。
見上げると、白い雲が大空をゆったりと流れていました。
「塩っぱい水で、いつも濡れたままなのは嫌になってしまう。雲のように大空を自由に飛べたらどんなに素晴らしいだろう」
魚や船やクジラたちは、いつも不満を言っていました。
ある日、海にグーがやって来ました。
「グー グー グー」
グーの声を聞いたみんなは、気持ちよく眠りました。
みんなは、空を飛んでいる夢を見ました。
見下ろした海は広くて、ゆったりと波打っていました。
海のあちこちからは雲がモクモクと生まれていました。
みんなは初めて海がとて広くて素晴らしいことを知りました。
みんなが目覚めると、いつものように海にいました。海は揺りかごのように体を揺らしていました。
「本当に素晴らしいものは、見えないのかもしれない」
空と海を比較して、文句ばかり言っていた自分たちのことが、みんなは恥ずかしくなりました。
それからは、みんなは海が退屈だとは思わなくなりました。
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第五話
町のみんなから怖がられている大きなライオンがいました。
町のみんなはライオンが「ウオー」とつぶやいただけで震えあがりました。
ある日、グーが夜空に現れました。
「グー グー グー」
グーの声を聞くと、町のみんなとライオンは心地よく眠りました。
みんなは、雲のふとんで ライオンと一緒に眠っている夢を見ました。ライオンのいびきは雷みたいに大きかったけど、オーケストラのように心地よく聞こえました。
みんなは目覚めました。
みんなは ライオンにおずおず近づいて話しかけてみました。
「話しかけてくれてありがとう。オレはいつもみんなと話したいと思っていたんだ」
ライオンは嬉しそうに答えました。
「怖かったのは、近づいたり、話しかけたりしなかったからかもしれない」
みんなは、心からそう思いました。
それからは、ライオンとみんなは仲良く暮らしました。
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第六話
その地方は長い間、日照りが続いていました。
川も、池も、畑も森も草原も乾ききっていました。
そこにグーが小さな雨雲を連れてやって来ました。
大地は少し生き返りましたが、グーの雨雲は小さ過ぎて、畑の作物には不十分でした。
がっかりしていると、グーの声が聞こえました。
「グー グー グー」
グーの声を聞くと、
みんなは心地よく眠り、地上をおおう雨雲の夢を見ました。
「グーの雨雲なんか ちっちゃすぎる。雨はやっぱりこうでなくっちゃ」
みんなは、大喜びしました。
しかし、目覚めると、畑は乾いたままでした。
みんなはがっかりして、小ちゃな雲を連れて来たグーに 文句を言いました。
グーは、寂しそうに去って逝きました。
それを見たみんなは 、雨雲が小さすぎると文句を言った自分たちが恥ずかしくなりました。
「おれたちは 豊かな実りを あたり前に思い、不作になると文句ばかり言っている。でも自然は、グーの小ちゃな雨雲でも喜んで感謝している。たとえ不作になっても、 何とかなるさ」
みんなは、グーが降らせてくれたわずかな雨水を大切に使うことにしました。
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第七話
心が離れてしまった二人は、味気ない毎日を過ごしていました。
ある日、グーがやって来ました。
「グー グー グー」
グーの声を聞いた二人は心地よく眠りました。
夢の中で二人は、豊かな木の葉に覆われた大きな丘の上にいました。
丘はゆったりと揺れて、二人はとても穏やかな気持ちになりました。
二人が丘と思ったのは、大きな木の梢でした。
見渡すと、広い木陰で、沢山の生き物たちが生き生きと暮らしていました。
二人は目覚めました。
すぐそばに、とても素晴らしいものが、いつもあったことに、二人は気づきました。
今まで二人は、ただ それを見ようとしなかっただけでした。二人は、本当は幸せだったことに気づきました。
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グーは地球の上を余すことなく飛び回りました。
「グー グー グー」
グーの声を聞くと動物も魚も草木も建物も車も船も飛行機も、みんな心地よく眠って、不思議な夢を見ました。
そして、目を覚ますと、地上は豊かな自然に覆われ、さわやかな風が吹いていました。
そして、誰もいがみあうことなく穏やかに暮らし始めました。
それらを見届けたグーは安心して、深い静かな森で長い長い眠りに入りました。
おわり
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