100分 de 名著・菜根譚・真の幸福とは「花は五分咲き、酒はほろ酔いが良い」と中庸を最良としていた。14年11月14日
NHK第二回100分 de 名著・菜根譚・洪自誠著のテーマは真の幸福とは。ゲストの大阪大学大学院教授湯浅邦弘氏が分かりやすく解説していた。
著者・洪自誠は明末期に中国三教の儒教仏教道教を取り入れた新しい思想を菜根譚として書いた。時は16世紀末。中国の思想書の中では新しく、現代人にも共鳴しやすい内容だ。
誰でも歳を重ねれば、ものの道理は分かって来る。しかし、確信を持つには熱気が足りない。そんな時に先人の歴史に裏付けられた言葉を聞くと、道理に確信を持つことができる。
彼が心酔した中国三教の、
仏教の無の思想は崇高過ぎて凡人は持て余す。
儒教の謹厳実直さは堅苦しい。
道教は神秘思想に走り過ぎてついて行けない。
道教は現世利益の側面が強く、台湾・東南アジアなどの華僑に広く信仰されている。その成立過程で老子を教祖として取り入れ、西欧ではタオイズム・Tao-ismと呼ばれている。
道教の道の字は「首」が始まりを、「辶=しんにょう」が終わりを示し、森羅万象と宇宙総てを表している。道教では宇宙と一体になった幸せを得るために錬丹術を修行し、不老不死の霊薬・丹を錬り、究極には仙人となることを理想とする。
今回のテーマ「真の幸福とは」を、番組では寸劇を使って分かりやすく説明していた。
言葉売りのおじさん・平泉成
若い女・碧戸結香
おじさんはいつものように路上に菜根譚の言葉の色紙を並べて売っている。傍らの段ボールの看板には「あなたに言葉の贈り物・・じせい(洪自誠)」と書かれている。
そこに通りかかる若い女性。出勤の遅い仕事に就いているようで、事務職ではなさそうだ。
彼女は立ち止まる。
「おじさん、これ、何売ってんの」
「あぁ言葉。いまあなたが求めている言葉を探してあげるよ・・・さぁ座って行く」
おじさん、路上の小さな組み立て椅子を薦める。
「わたしさ、とにかく幸せになりいの。ともだちの誰よりも・・」
彼女は若者らしい夢を語る。
「なるほど、あなたにぴったりの言葉があるよ」
おじさんは彼女に次の言葉を渡す。
貞士無心徼福・・・
心正しい人は無理に幸福を求めようとしないが、天はその無欲な心に感じて幸福を与える。
逆に心のねじけた人は、利己的に策を弄して福を得ようとするが、天はその作為に対して禍を下す。
無理矢理に幸せになろうとしはだめで、正しいことをしていれば自然に幸せが訪れると言う意味。
「ええっ、でも、わたしいっぱい幸せになりたいのに・・・いけめんで、リッチな彼氏で、セレブな生活」
不満げな彼女に、おじさんはもう一枚の言葉を渡す。
多蔵者厚亡・・・
多くのものを抱え込んでいる者は失うものも大きい。だから富んでいる者は、そうした心配をしないですむ貧しい者に及ばない。
また、高い危険な場所を歩く者はすぐに躓いて倒れる。だから身分の高い者は、低い安全な所をのんびりと歩いている者に及ばない。
「豊か過ぎても、偉くなり過ぎても、心配の種が増えるだけで幸せにはなれないよ」
「何か・・・つまんない」
おじさんの言葉に不満げな彼女。お代を払わず、言葉の色紙を持って去って行く。
「あっ・・お代・・あああ・・」
お金を貰い損ねて気落ちするおじさん。頭上のカラスの声に哀愁が漂う・・・
菜根譚には上記に関連して次の言葉が記されている。
"富貴を浮雲にするの風ありて、而も必ずしも岩棲穴処せず。"
富や財産は浮き雲のようなもので、豊か過ぎては不安に苛まれるが、浮き世を離れて岩山にこもるような生き方も良くない。世を捨てず、現実社会の中で、ほどほどの節操をもって生きることが大切だ。
再び彼女は現れる。
「おじさん。こないだ、お金はらうの忘れちゃった」
「あぁ、おじょうさん、わざわざありがとう・・・どう、それから」
おじさんはお代の千円を嬉しそうに受け取りながら近況を聞く。
「彼氏ができたんだけど、何かもの足りないというか・・・もっといけめんで、お金持ちのいい男がいると思うのよね。だからぜんぜん幸せじゃないの」
おじさん、苦笑しながら次の言葉を彼女へ渡す。
人生福境禍区・・・
人生の幸不幸は人それぞれの心が自ら作ったものだ。
そのことを釈迦は説いている。
利欲を求める心が強すぎると、燃えさかる炎の海を行くように苦しむことになる。しかし、心を清浄にすると、たちまち火焔は消え、静かな池を行くように心は穏やかになる。
「心持ちを変えるだけで見え方も変わり、幸せにも不幸にもなる。彼氏だって良いところがあるでしょう」
「まあね・・結構優しいし、気はきくのよね」
彼女は、まんざらでもなさそう。
「だったら、十分じゃないの・・・でもねぇ、お金持ちだってね、ろくでもないやつがいるよ」
「そう言われたら、彼にあいたくなっちゃった。じゃね」
納得した彼女は、またもやお代を払わずに去って行く。
受け取り損ねて、ため息をつくおじさん。
"棚ぼたには注意"
再び彼女が楽しそうに現れる。
「おじさんごめん。こないだもお金はらうの忘れちゃった」
「おや、おじようさん。彼氏はうまくいっているのかい」
「それがさ、きのう、すっごいいけめんに声かけられて、ITベンチャーの社長でね、わたしに一目ぼれしたらしいの。で、ディナーにさそわれて超ラッキー」
有頂天の彼女に、おじさんは次の言葉を渡す。
非文之福・・・
分不相応のものを努力なしに得た時は気をつけなければならない。人はその幸運を実力があったからと思い込むが、それは勘違いで禍を招くことになる。理由のない授かり物は天が人を試す落とし穴みたいなものだ。結局、多くの人は穴に落ちて大怪我をして苦しむことになる。
「分不相応が不幸せと言うのはね、なんか危ないぞと、疑ってみなければいけない、と言うこと」
諭すおじさんに不満げな彼女。
「えええっ、ぜんぜん分不相応じゃないし、わたし可愛いし」
彼女は若さ故に自分の分に気づいていない。
そこに電話がかかってくる。携帯の表示を見て嬉しそうな彼女。
どうやら、ITベンチャーの社長からのようだ。
「わたし、そんなお金ないし、貯金・・?」
困惑している彼女。
やおらおじさんは立ち上がり、彼女の携帯を取って勝手に電話を切る。
「何するのよ」
むっとした彼女におじさんが聞く。
「何て言っていた」
「緊急な取引があって、急に資金が必要になったから、300万ほど貸しくれって」
「ほら、言わんこっちゃない」
「棚ぼたには気をつけよか・・・」
またもや代金を払うことを忘れ、彼女は悄然と去って行く。
ため息をつきながら「まぁいいか」とつぶやくおじさん。
"雨降って地固まる"
彼女、再び現れる。
「おじさん、こないだもお金払うの忘れちゃった。でもだまされなくてすんだよ」
千円を安堵した表情で受け取るおじさん。
「そうか、それはよかった。その後は、彼氏と上手く行っているのかね」
「それがね、優しいばっかりじゃないのよね。結構、意見とか好みが違って来て、このごろ、喧嘩も多いの」
「それはむ良かったじゃないか」
意外な言葉に怪訝そうな彼女。
そんな彼女におじさんは次の言葉を渡す。
一苦一楽相磨練・・・
苦労や楽しみを経て得てこそ、本当の愛や幸せを得られる。物事に関しても、疑ったり信じたりしてこそ真理に辿り着く。楽しいだけの愛は長続きしない。物事は思い込んでいるだけでは真理に辿り着けない。
「そうやって、はじめて愛は本物になる」
しみじみとつぶやくおじさん。
「そんなものなの」
「わたしにも経験があるから間違いはないよ」
「でもおじさん、ありがとね」
今度はお代を忘れずに渡し、彼女は満足して去って行く。
「幸せにね」
見送るおじさん。
僅かな売り上げに一喜一憂しているおじさんに洪自誠が重なる。
菜根譚では「花は五分咲き、酒はほろ酔いが良い」と中庸を最良としている。人は豊か過ぎても貧乏過ぎても不幸になって苦しむ。理想や目標が高すぎる時は少し下げ、少し頑張れば真の幸せが得られる。
苦しみばかりや楽しみばかりでは、やがて破綻が訪れ苦しむことになる。程よく苦しんだり楽しんだりする人生が一番素晴らしい。そのようにして晩年を迎えることができれば、美しい夕日のように素晴らしい老年を迎えることができる。
菜根譚では晩年を人生で一番素晴らしい時期としている。言い換えるなら、晩年が光り輝くように、人生を一歩一歩噛み締めて歩くべきなのだろう。
司会の伊集院光が最後に落語に登場する、苦楽を伴にした老夫婦の川柳を紹介した。
今はただ飯食うだけの夫婦なり
更に違うバージョンを
今はただ小便だけの道具なり
「おじいちゃんは色々暴れたんだな・・・」
伊集院光のつぶやきに武内陶子アナが喜んでいるのが大人で、とても良かった。
新河岸川夕景。
晩年をこのように静謐に迎えられたら素晴らしい。
幸福度の国際的調査では、GNP1位の米国が17位。2位の中国が93位。3位の日本が43位。日本43位は日本人特有の控えめな謙遜の結果で、本当の順位は30位くらいが適切だろう。
ちなみに1位はデンマークで、北欧が上位に入りヨーロッパ各国がそれに続く。日本の二つ上に韓国があるのは自慢したがる国民性によるものだ。
もし、調査内容を変えれば順位は大きく違ったはずだ。
治安については、殺人事件が少なく、女性が一人で夜道を歩ける日本はトップクラスだ。交通の便利さ、人々の優しさや思いやりでもトップだろう。病院に安心してかかれる。食べ物が美味しい。それらでもトップ10位以内に入るはずだ。それらの項目での日本人の自国に対する満足度はかなり高い。
ただし、老後については世界に先駆けて少子高齢化社会に突入した日本の幸福度が低くなるのは仕方がない。地震火山噴火と自然災害の多さ、住居費の高さ、食物自給率の低さに対する不安感も大きい。
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