未練への確執を繰り返しながら、物語を紡ぎだすことに人生の価値があるのかもしれない。15年2月19日
物語が見える人には親しみを感じる。
情熱的な恋物語を夢見る若者。世界への雄飛を語る若い起業家。晴れ舞台での勝利を夢見るスポーツマン。人生の価値は結果ではなく、物語を紡いで行くことにある。
母の夢は自分で作った人形やペットたちに囲まれ、暖かい陽だまりで手芸をすることだった。それは私によって叶えられ、母は幸せな老後を送った。
母には大正の自由な空気や戦後南九州での自然溢れる物語を感じていた。
比べて、今、同居している姉の物語は見えにくい。多分、姉の物語は、平凡だが豊かで安定した老後への憧れだと思っている。
昨日までみぞれまざりの雨だった。
ベランダから遠くゴミ焼却場の煙突が雨に霞んで見えた。
今日は打って変わっての快晴だ。スギ花粉が舞い始めたのか、朝からくしゃみを連発している。
私の思い描く物語は、インディジョーンズみたいなマンガチックなもので話すのは恥ずかしい。しかし、青空を見上げながら、ぼんやりと死を迎える最終章だけは変わることはない。
誰にとっても自分自身の死は最大の関心事だ。
戦場での死。震災での死。疫病での死。いずれも万力で捻じ切られるような理不尽な死だ。しかし、自然死は違う。人はすべて平等に死ぬものだと納得させてくれる。
43歳で死んだ長兄は重度の紫斑病を抱えていて、医師から30歳まで生きられないと言われていた。だから、43歳まで生きながらえての死は、理不尽には思えなかった。
上の姉は69歳で死んだが、人生に嫌気がさしての自然死で、仕方がないと納得できた。
父は79歳で死んだ。
闇金に追い込まれたショックで寝込んだ末で、わがまま人生の成れの果てだと納得した。
そんな父でも、我が家で家族に囲まれて幸せに死んだ。
母の97歳での死は誰よりも自然だった。
看取った私に、最後の吐息と最後に打った拍動を伝えることができたのは、世間では稀な最期だ。
家族たちの死と比べると、私がこれから迎える死はとても孤独なものだ。
しかし、覚悟の上のことで、どのような死に方をしても十分に納得できる。
70代に入り、自分が死ぬことがそれほど遠くないと感じている。
その死は、在宅で祖母、父、母と看取ったのでリアルに想像できる。
それは壊れたテレビのように視界がグニャリと歪み、捉えどころのなくそれらをぼんやりと眺めているうちに視界が薄れ、何も分からなくなる。
それが自然死だと思っている。
母は死の1週間前あたりから、私を見る視線が合わず、私のはるか後ろを眺めていた。今思うと、目の焦点が合わなくなって、ただぼんやりと私を感じていただけなのかもしれない。
東京北医療センターの夕暮れの庭。
カメラを構えていると、ファインダーの端にKさんが現れ、近づいて来て少女のように微笑んだ。
江戸文化の真髄の「粋」は好きな言葉だ。
ある解説書に「粋とは目的に到達する前にサラリとかわして止めること」とあった。
たとえば、身だしなみは完璧なのはダメだ。人に会う時、今床屋へ行ったばかりに見えるのは野暮で、前日に調髪して、当日はほんの少し乱れているのが粋とされている。
衣服では、モード誌から飛び出たような完璧なオシャレは野暮で、ちょっとした遊び心で乱れさせるのが粋だ。フォーマル背広姿に、プラチナか金のミッキーマウスのカフスをさりげなく付けるとか、スボンの折り目をシワで少し壊したりすると粋になる。
粋の定義に未練を断ち切る諦めがある。
西部劇の最後で、さすらいのカウボーイが愛する人を残し、再び去って行くシーンがあるが、それが彼らが思う粋な生き方なのだろう。
粋の定義は人生にも当てはまる。
成功寸前で隠遁するとか、終末期に未練を残さないのが粋な人生だ。しかし、実行するとなると難しい。
女性には粋な生き方は当てはまらない。
先ほどのワイドショーで平子理沙写真集「heaven」が2万部売れたことを取り上げていた。写真集は高価なので2万部売れれば、普通の本の数倍の価値がある。
平子理沙氏については番組で初めて知った。
彼女は女性たちから美のカリスマとして崇められているようだ。番組に出て来た姿は、確かに44歳にしては魅力的な脚線とボディラインを保っていた。
しかし、顔の表情がお面のように強張っていて、自然な穏やかさを感じなかった。もしかすると、顔の色んな箇所に何かを注入し、皮膚を切り詰めたりしているのかもしれない。
そのような若さへの未練は野暮そのものなのだが「粋なんぞクソ食らえ」と彼女は気にせず主張している。それは我々には理解不能な女性特有のバイタリティなのかもしれない。
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