ギザギザ耳のネコの思い出と、デンマークとブータンの幸せ度の違い。15年6月4日
連日、深夜まで絵を描いている。
気がつくと夏が来ていた。
人形の「お雪さん」の衣替えは私がした。
着替えさせていると、母の死の1ケ月前、ヘルパーのOさんに手伝ってもらいながら衣替えをしていた母の姿を夢のように思い出す。
死別後の衣替えは姉に頼んだが、扱いが雑だった。
そんな姉にお雪さんの小ちゃな指を折られては困るので、それ以後は私がやっている。
忙しくて、衣替えは6月3日に遅れてしまった。
「お雪さん」は、母がボロ布を堅く縛って芯にして、桐粉粘土を盛り付けて作っていた。しかし、器量が悪く、私が途中から手を入れた。それからは手が止まらなくなって完成まで仕上げてしまった。
手の大きさは12mmほどと繊細で、乱暴に扱うと指が折れてしまう。
胴体と手足は桐材を彫って作った。
関節は可動で立つことも座ることもできる。
仕上げは、胡粉を粗目から極細目まで幾度も塗り重ね、トクサと椋の葉で仕上げた。目眉は墨、唇は日本画画材の紅色で描いた。唇と目は透明マニュキュアでツヤを出した。
完成させてから35年は経ている。
人形作りは作品に魂が篭るようで、危うい世界だと思った。
だから、人形作りはそれっきりにした。
散歩道のネコ。
5年ほど前から会うメスで、とても人なっこい。
カメラを構えると近づいてきてゴロンと腹を見せた。
近くで見ると耳先がギザギさに噛み切られている。
温和な子だが、おてんばで、派手に喧嘩しているようだ。
このギザギザ耳を見ると母の子供の頃の話を思い出す。
母は子供の頃から大のネコ好きで、捨てネコを見つけると拾って来た。しかし、養母はネコアレルギーで飼うことはできない。仕方なく、養母の実父の甚兵衛が母が寝ている間に、貰い先を見つけて飼ってもらっていた。
当然、翌朝に母は子ネコがいないと騒いだ。
・・あの子は今朝早く、
「ネコ岳に修行へ行きたい」
と言うので、選別に鰹節を持たせ、
「元気で行って来いよ」と見送った。
出かける時、千代しゃんに
「くれぐれもよろしく」って言っていた。
3年修行して、偉くなって、
耳先がギザギザ三つに欠けたら、帰って来るよ。
甚兵衛はそんな話をして母を納得させた。
母はその話を大きくなるまで信じていて、
耳が三つのギザギザに欠けたネコが帰って来るのを、いつも楽しみにしていた。
写真のこの子も、ネコ岳で修行して来たのかもしれない。
養母と5歳ほどの母。
母は髪型が気に入らないとぐずった後で、不満げに写っている。
写真の後ろの縞の着物に博多帯は養父。
カットしてあるが左側に養母の実父甚兵衛がいて、母は彼に体を寄せるように立っている。
祖母は子供の頃、眼瞼下垂にかかった。
甚兵衛は眼医者に行くように手配したが、祖母は遊びに夢中で殆ど行かなかった。
祖母の母親は小学校の入学前に早世した。その人は久留米藩の武家の娘で、女の鏡と言われるほどの人だった。もし早世しなかったら、もつとしっかりした人生を送れたのに、と祖母が話したことがあった。
当時の医者は商家と同じで、年末に纏めて治療費を支払っていた。それで、年末に治療費を聞いてくるように甚兵衛が言うと、祖母は口から出まかせに30円だと答えた。
明治時代の30円は今の貨幣価値で60万ほどだ。甚兵衛はまったく疑いもせず30円を祖母に渡した。祖母は大喜びで駄菓子屋に行き、店の品を全部買い占め大きな長持ちに詰め込み家に運ばせた。
それから毎日、近所の子供を集めてはお菓子やおもちゃを配って顔を売った。祖母は料理も裁縫も、女性のすることは終生一切しなかった。この破天荒な性格は終生変わらず、母は祖母の後始末に散々苦労をさせられた。
写真では目が細いが、眼瞼下垂がなければぱっちりした大きな目だったと祖母は言っていた。だから、若い頃、町を歩いて帰ってくると、袂が重くなるほど男からの付け文で一杯になったと自慢していた。しかし、眼瞼下垂は子供の頃にかかっているので、眉唾だと思っている。
甚兵衛が子供の言うことを信じたのは彼の信念だった。
彼は西郷軍に従い、最後まで城山へ籠ったほどに血の気が多い苦労人で、子供の嘘くらい簡単に見抜けた。しかし、敢えて子供の言うことを信じるのが彼の信条だった。
母が子供の頃、祖父にお小遣をねだると財布ごと母に渡してくれた。母は50銭玉を取り出して「2銭玉もらっといたよ」と嘘をついた。甚兵衛は「そうか、そうか」といつも笑顔で疑ったりしなかった。
当時の50銭は子供にとっては大金で使いきれる額ではなかった。家の近くに久留米師団の将校クラブがあった。母は厨房に出入りして遊び場にしていた。母は美味しそうな料理があると、注文して厨房で食べていた。
当時、珍しかったチョコレートを初めて食べたのも将校クラブだった。それはミントチョコで、母は苦いチョコレートを削って中のミントの部分だけを食べていた。しかし、すぐにその苦さの虜になり、チョコレートが大好きになった。
母は祖母とは違っていた。
いつも嘘をついた罪悪感があり、遊び終えると甚兵衛の好きな酒を買って帰った。甚兵衛は「そうかそうか」ととても喜んでいた。
しかし、母は次第に罪の意識が募って、信じてくれる甚兵衛に嘘がつけなくなった。
「今になると分かるけど、あれは甚兵衛さん流の教育だったんだ」
後年、母はその話をよくしていた。
麦秋。
5月から6月初めにかけてはイネ科の植物の実りの季節で秋のような景色になる。
スズメたちが、落ちた草の実を楽しそうについばんでいた。
昨夜は満月が雲に透けて見えた。
満月を見上げながら、荒川土手を歩くのは実に心地よい。
昼間は暑いが、荒川の夜風は冷たいくらい涼しい。
歩きながらピアノ演奏の「パッヘルベルのカノンと」カラヤンの「亡き王女のためのパヴァーヌ」を聴いている。荒川土手の広い道は、車は通らず、深夜までジョギングやウォーキングをする人たちが途絶えず、とても安全だ。川口の高層マンション群がニューヨークの夜景のように美しい。
夕暮れのガクアジサイ。
緑道公園にて。
先日、テレビ東京で、幸福度世界一のデンマーク取材番組を見た。税金は高いが高福祉のおかげで、国民の不満はなく、国連調査では世界一の幸福度の国だ。
老人たちは貯金が無くても、死ぬまで至れり尽くせりに世話してもらえる。老人施設は瀟洒で広い個室完備で、トレーニングルーム、美容院、歯科医院と併設されていて、どれも無料で利用できる。だから、老人たちはとても幸せそうだった。
しかし、なぜか腑に落ちない。眩しいほどの充実した福祉なのに寂しい風景に見えた。
さしずめ物語なら、
・・・おじいさんとおばあさんは、一生懸命働いて税金を払って、
国の高福祉のおかげで、幸せな一生を過ごしました。
めでたしめでたし・・・
それは衛生的で汚れがない真っ白な部屋の物語だ。
物語は意地悪な継母とか魔法使いが出てこなくては、つまらなくて読む気がしない。
横浜にラーメン博物館がある。
外見は近代的なビルだが、中へ入ると昭和の懐かしい裏路地が再現されている。薄汚れたモルタル壁。ガタガタ音がしそうな窓ガラス。使い込まれた暖簾。どれも切ないほどに懐かしい光景だ。
デンマークでは、そのような人間生活の汚れみたいなものが見えなかった。
訪問した一般家庭も、街中の建物も、どれもきちんと整理されていて瀟洒で、人々も性格が良さそうで笑顔に溢れていた。なのに住みたい気持ちが起きない。心底、デンマークに生まれなくて良かった、と思ったくらいだ。
そもそも、幸せ度を計る国連調査の基準に問題がある。
この調査では幸せ度世界一と信じていたブータン国民を下位に追い落とした。そうなったのは、数値で幸福度を計ったからだ。それは何パーセントの家庭に車やテレビや洗濯機があるかとか言った数値だ。この基準では、デンマークよりブータンが不幸になるのは当然の結果だ。
この調査は、幸せだと思っている人たちに、
「お前は本当は不幸なんだ」
と押し付けるようなものだった。
荘子は、幸不幸は自分と人を比べることから起きると言っている。
世界の情報から隔離されていたブータンの人は、とても幸せに毎日を過ごして、世界一幸福感のある国民になった。しかし今は、ブータンもインターネットによる情報が溢れ、無理やりに幸福感を薄めさせられてしまった。
傍のニュース番組で佳子さんのフィリピン大統領晩餐会出席の映像が流れていた。サーモンピンクのドレスと真珠のネックレスが実に初々しく可愛い。
中国では佳子さんを是非招きたいと、水面下での動きが活発なようだ。共産国と皇室は水と油のように思われているが、毛沢東の時代から一貫して皇室に対して友好的だ。中国国民には伝統回帰の傾向があり、自国が皇室を廃したことを残念がっているほどだ。
中国の歴代主席は就任前に皇室晩餐会に出席することが、暗黙の主席就任の前提条件にされている。現在の習主席も就任前に、当時の民主党小沢氏の強引な計らいで晩餐会に招かれた。
皇室外交は国際関係でのバランス感覚がとてもよく、費用対効果が大きい。海外高官の皇室人気はとても高く、佳子さんには、これからの日本外交のために大きく役立ってもらえそうだ。
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それにしても、番組中のライザップのCMは映像も音も不快で気持ち悪い。
あのクチャクチャものを食べているような挿入音を聞くとすぐに番組を変えてしまう。
効果があるからC Mを打っているのだろうが、理解しがたい。
以前、リーブ21養毛システムのCMが氾濫していた。
大変な高額料金で、何となくライザップの高額痩身術のシステムと似ている。
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