昔の老人たちは自立心が強かった。30年後の人類の存在意義と仕事を失うアーティストたち。16年4月14日
風は冷たいが日差しは暖かい。
桜の散った病院下の芝生で、若いお母さんと子供たちが楽しそうに食事をしていた。
桜が残っていた先週まで、公園脇の道路に老人が古ぼけたワゴンを止め、缶ジュースや缶ビールなどを並べて小商いをしていた。毎日、気になって見ていたが、花見の盛りでも売れる気配はなかった。老人は初めの頃こそ元気いっぱいだったが、次第に表情はさえなくなった。その様子では仕入れ資金の回収は難しく、気の毒で胸が痛んだ。
病院下の公園が造成される前、そこには古ぼけた木造家屋の看護婦寮があった。
道路とは万年塀と呼ばれたコンクリートの塀で隔てられていたが、壊れた大きな穴から自由に出入りできた。
その荒れ果てた敷地の片隅1坪ほどの土地を耕し、里芋や野菜を作っているおばあさんがいた。僅かな家計の足しにしかならない菜園だったが、彼女は体を動かすことが好きなようで、毎日来てはせっせと手入れをしていた。やがて工事が始まり、菜園はあっという間に潰されてしまった。
20年ほど昔、桐ヶ丘団地の一角に屋台を出していた老夫婦がいた。七十代後半の老夫婦はお好み焼きを子ども相手に売っていた。剃り上げた頭に捻りはちまきの老人がお好み焼きを焼き、傍らで老妻がかいがいしく手伝っていた。
値段は15円で、刻みキャベツにソースと花カツオを少量かけただけの質素なものだ。
昔の子供ならそれでも喜んで食べていたが、今の子供は見向きもしなかった。商売はうまくいかず、屋台は数ヶ月で消えた。
昔の老人たちはすぐに公に頼ろうとせずに、一生懸命働いて、何とか自立しようとしていた。花見客を目当てに小商いをしていた老人を眺めながら、そのような昔の情景を次々と思い出した。
残っている一輪の花が、清楚に風に揺れていた。
自然の中で生まれ、
日の光を浴び、大気を呼吸して、自然の中で生き、
自然にすべてを委ねて息を引き取る。
それは人生の理想だ。
一瞬に咲いて、一瞬に散ってしまう桜に、
人はそれを学んだ気がする。
毎日のようにAI--人工知能--に関するニュースを見る。
先日は将棋のプロ棋士と電脳・Ponanzaとの対局で、第一戦は電脳が勝った。
その前はグーグルが作った囲碁ソフト・AlphaGoが囲碁棋士に4対1で勝った。
数年前まで、AI (人工知能) が囲碁で人に勝つには10年はかかると思われていた。この勢いなら数年でAIにプロ棋士は歯が立たなくなりそうだ。そのように名人がAIに勝てなくなった時、囲碁も将棋もチェスも、プロ棋士の存在意義が危うくなるだろう。
スマホは40年前のコンピューターと比べて値段は10億分の1になった。
そして、性能は10億倍以上に進化した。
同様に、AIは予測以上のスピードで進化しそうだ。
ソフトバンクの孫正義社長の予想では、数年後に人が担ってきた仕事の一部がシンギュラリティ(技術的特異点)を迎える。その時、人工知能が単純労働を担い、人類は好きなことに専念できると、彼は楽天的に語っていた。
現実にはAIと人との蜜月は長くは続かない。
人でないと不可能と思われていた知的作業は次々とAI に取って代わられ、30年後には全面的に移転する。とても寂しいが、人が知性を誇れた時代はあと20年ほどで終末へ向かい始める。
かって人手で作られていたものが次々と機械作りに変わった。
例えば布生地はその代表だ。
100年前から機織機へ変わり、手織りは少数の伝統工芸の世界だけになった。
手織りの微妙な人手の温もりは魅力だが、AIはその微妙ささえ再現してしまう。
映画スターウォーズでは人が主人公だが、現実の近未来の戦争は戦うのはロボットだけに変わる。
すでに、人の知的作業の多くをPCが担っている。
知らない土地を訪れる時、現代人の多くはスマホの地図で現在地と目的地を確認しながら辿る。それはとても便利な機能だが、現代人の記憶力や推測力を著しく劣化させている。
スマホを持っていない私は、どこかへ出かける時、地図を紙に書き写す。描き写す過程で地図は記憶され、記憶だけで目的地へ辿ることができる。
待ち合わせも、昔は日時場所を指定して待ち合わせをした。
あの不安に満ちた待ち時間は様々な想像力がかきたてられ、知性を維持発達させてくれた。
スマホの目覚ましアプリは、朝起こした後、設定した時間ごとに「出かけるまでにあと何分」と音声で教えてくれる。それは便利な機能だが、朝の出かけるまでの洗面、食事、身支度を自分の頭で管理する能力を劣化させてしまう。
完璧な自動翻訳機は10年を待たず出現しそうだ。
現在の翻訳機能は、膨大な例文を参考に翻訳しているだけで、意味不明で実用性は低い。しかし、AIによる翻訳は基本システムがまったく違う。AIは一旦言葉の意味をイメージ化して正確に理解し、それを翻訳する。だから、有能な翻訳者なみの能力を持つ。
その時、世界は大きく変わる。
語学が不得意だった日本人はそれを契機に、自由に世界へ進出し始めるだろう。
2045年あたりにシンギュラリティを迎え、全人類の知能を結束してもかなわないAIが実現するとされているが、実際は前倒しで実現する。なぜなら、最初に手にした国が世界の覇権を掌握できるからだ。
芸術の分野で真っ先にAI化されるのは音楽だろう。そして次は俳句、短歌、エッセイ、小説、絵画と続く。
最初は人がイメージを与え、AIが制作した完成品を再度人が評価し選択する時代が10年くらいは続く。しかし、完璧に人の心と肉体を模倣した擬似人格&肉体をAIが所持するようになれば、AIは人にたよらずに自立して創作を始め、ヒットするしないの評価をするようになる。なぜなら、AIは膨大なビックデータを所持していて、世間の好みの流れを手に取るように理解しているからだ。
個性的な人格をAIに持たせることは難しくない。
近未来には人の脳をスキャンできる技術が完成し、例えば私とまったく同じ擬似人格をAIに持たせることができる。そうなったAIは私が描くのと同じ作品を制作し始めるはずだ。
AIに欠けているのは、成功失敗や喜怒哀楽の膨大な記憶だ。
近未来の作家の個性は、作品ではなく、その人の膨大な記憶と経験を示すようになる。AIは優れた作家から記憶をスキャンし、その知識から生み出したイメージを源として、音楽、文学、美術を創作し始める。
危険な行為だが、ユダヤ人を憎むコンプレックスの強い画家志望の人物の擬似人格&肉体を持たせたら、AIはヒットラーと同じ行動を始めることになる。
シンギュラリティまで、AIは多様で膨大な人間たちを模倣することで進化する。
それを達成した後は、人知を超えた神の領域に進化して行くはずだ。
だからこそ、人がどう生きるかの、新しい哲学は必須で、近未来の哲学だけはAIに任せず、人は独力で完成すべきだ。
AIがシンギュラリティを迎えた時、エリートたちが営々と続けてきた勉学や努力は意味をなくす。
それは貧富の差においてもおなじだ。
その時、AIによって高性能の道具、食料、健康、若さ、奉仕ロボットが無尽蔵に人に提供される。その時、猛勉強や努力で得た地位も巨万の富も意味をなくす。なぜなら、ベーシックインカム--働かなくても平等に、全員に生活費や物資が提供される制度--がAIによって実現し、貧しいものを従え奉仕させる金持ちの特権が失われるからだ。
それでも少数の資産家がAIを独占し、全ての生産を独占することはありえる。しかし、人類の大多数がAiに仕事を明け渡して失業していては、AIを独占しても利益をあげることはできない。その時、民主主義が機能しているならベーシックインカムが導入され、人は物質的な欲望から解放される。
未来人の健康寿命は100歳を超え、美男美女の従順な召使アンドロイドにかしずかれた心地よい無為徒食の生活を手に入れるだろう。
欲望を持たないAIは、人から自立してイメージやアイデアを創出することはできない。しかし、人と同じ自己保存の機能を持たせれば自立して様々なアイデアを創出しはじめる。
それは人にとって危険な機能で、暴走し世界を破滅させるかもしれない。だから、極めて慎重に設定されなければならない。
近未来では、面倒な子育てを放棄する者が続出する。
人口を右肩上がりで増やさなければならない呪縛から解放された人類は衰退し、太古の生物比率に限りなく近づく。
神は自分に似せて人を作った。
その人は、自分に似せてAIを作る。
人と神の違いは、AIは創造主である人を遥かに超えてしまうことだ。
それは、幸不幸ともに想像を超えた世界のようだ。
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