メーテルリンク「青い鳥」は大人向けの物語だった。17年9月29日
秋の大気は心まで透明にする。
この大気は祖母や兄姉の荼毘の後に似ている。
献体した父母の遺骨が返された日も透明な光に満ちていた。
それは寂しい記憶だが、今は懐かしい。
懐かしく思い返すのは、若かく夢に溢れていたからかもしれない。
いつものカフェでコーヒーを頼みながら軽く言った。
「今日の外気はとても爽やかだ」
カウンター内の彼女は笑顔になった。
「何だか、誰か死んだ後みたいに爽やかだ」
付け加えると、彼女は笑いながら首をかしげた。
死んだ後とは、おかしな例えだ。
本当は葬儀の後の透明で冷んやりとした寂しさを言ったつもりだったが、説明するのは止めた。
いつもの席で、鬱蒼とした木立を眺めながらコーヒーを飲んだ。
そして、メーテルリンクの「青い鳥」をパラパラと読み返した。
素晴らしい空だ。
荒川の上に、金魚みたいな雲がポツンポツンと流れていた。
夏に目立つ花は百日紅くらいだが、
秋は彼岸花から、キバナコスモスにオシロイバナとにぎやかだ。
先日「青い鳥」を読み終えた。
1日で楽に読み終えられるページ数だが、とても内容が深くて読み飛ばすことができなかった。
読み終えて、長い年月、騙されていたと思った。
最初に絵本で読んだのは、5,6歳の頃だ。
その内容は浅くて、幸せの青い鳥は現実にはいない、と言った類型的なものだった。
本物を読み終えた感想は違う。
これは大人のための哲学書に近いものだ。
チルチルミチルには死んだ多くの弟と妹がいた。
そして、新しく生まれる弟も幼くして死ぬ運命にある。
メーテルリンクは自然や人生に善悪や優劣を決めつけていない。
善悪、幸不幸全てを肯定しているのは東洋思想に近い。
丁寧に選ばれた一つ一つの言葉に、
ノーベル文学賞作家の奥深さを感じた。
「青い鳥」夜の精
夜のシーンはとても美しい。
27日、カフェで読んだあと、一気に描いた。
実際は鉛筆画だが、フォトショップで色をつけた。
先日のEテレの「らららクラシック」はモーツアルトだった。
「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」作曲の謎を作曲家 宮川彬良氏が独自視点で分析していた。彼は、この曲はモーツァルトの内面の愚痴のように下がるモチーフが重要だと話した。下がる音の繰り返しに、ささいなことに一喜一憂するモーツァルトの人間臭さが重なって見える、と楽しそうに話していた。
モーツアルトの父親は教育者として大変に優れていた。
だからモーツアルトは父親を深く尊敬していたのだろう。
「素早く簡単にできた曲はヒットする」
父親のこの言葉はとても素晴らしい。
絵においても悩まずにさっと描けた絵はとても優れている。
これは音楽、文学、アート全てに共通する原則だ。
冷水を飲む時、母の遺品の備前の湯呑みを愛用している。
岩のような風合いの湯呑みから飲むと、山の清流のように美味しく感じる。
母は備前が好きで湯呑みがいくつもあったが、引越し業者の乱暴な取り扱いのせいで、割れずに残ったのは2個だけだった。
1個は母の遺言に従い、少し残した遺灰を入れ、紅色の鹿の子絞りの袋に入れて仏壇に飾ってある。鹿の子絞りの袋は生前母が自分で縫っておいたものだ。
ベランダから上弦の月が見える。
公園のベンチから、木々の梢の間に見えた月は大きかったのに、ベランダから見える月は小さく孤独だった。
しばらく眺めていると夜烏が鳴きながら過ぎって行った。
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