上手な嘘と嘘の見抜き方で、営業・企画・宣伝力強化。冷和2年10月29日
米国心理学者マイケル・ルイスの「嘘の見抜き方」では、人は生まれながらに嘘をつく才能があると言う。嘘をつかない人はいない。例えば、余命幾ばくもない末期ガン患者に「大丈夫です」と医師が励ますのは優しい嘘だ。人に限らず、チンパンジーでも犬猫でも嘘をつく。彼らの嘘は他愛なくて可愛い。
著者によると、嘘の見抜き方を学ぶことで、上手な嘘がつけると言う。
見破られない嘘をつくには、小さなことなら自分が不利になっても正直に話すことだ。未熟な詐欺師は、取るに足りない小さな嘘を積み重ねて本命の矛盾を突かれて破綻する。
日常生活でも、小さな真実を積み重ねてから大きな目的を話すと、多くの人は真偽がはっきりしなくても信じてしまう。逆に、すぐにバレる小さな嘘を積み重ねてから、正しいことを話しても信じてもらえない。
この手法は、企画会議などに応用されている。
今回の新型コロナ対策でも、この手法は有識者会議などで多用された。医学と統計学を巧妙に組み合わせて「8割削減すれば新型コロナは急速に収束する」とか「ロックダウンをすれば収束する」などがそうだ。結果は国民が実感したように正しくはなかった。もっとも、有識者たちは国民を騙そうとしたのではない。単純に科学的ミスを犯しただけだった。
巧妙な詐欺師ほど、騙す相手の嗜好や行動傾向を綿密に調査し、丁寧細やかに配慮する。大抵の人は気持ち良く接してくれる相手には気が緩む。詐欺師は猜疑心が緩んだタイミングで大きな嘘を仕掛ける。そうされると慎重な人でも親近感バイアスがかかり簡単に騙されてしまう。
しかし、大きな嘘のつじつま合わせはとんでもなく複雑で難しい。だからベテラン詐欺師は詳細に計画を立て細部まで矛盾がないように時間をかけて準備する。
この手法は一般社会でも大きな企画や営業などで利用されている。新事案ほど、それが正しか間違っているか、誰にも分からない。だから、新事案は嘘を信じさせるように割り切って提案すると成功する。
取調官は、被疑者が本筋から話題を変えようとした時の表情の変化で真偽を探る。被疑者が話題を変えようとしても、あえて遮らない。すると、嘘に不慣れな被疑者は安堵の表情を示す。しかし、嘘をついていない被疑者は弁明に拘り、核心から離れることを嫌がる。ベテラン取調官は、そのような被疑者の微妙な変化に注視している。
取調官は被疑者が自分の鼻に触れたり、唇を舐めたり、口ごもったり、目をそらすなどの表情の変化を見て真偽を判断する。ただし、天才的な嘘つきは感情コントロールが上手なので、そのような失敗は滅多にしない。しかし、コントロールが巧妙すぎると、まぶたの瞬きが通常より激減したりして、嘘がバレることがある。それを応用して、テレビ画像で政治家などの表情の変化を見ていると、嘘か本当かわかり面白い。
天才的な嘘つきは感情のコントロールが上手い。疑われた時、わざと感情を高ぶらせて激昂する。もし、激昂の直後に、すぐに感情が収まるようなら作為的なものだ。その微妙な違いを取調官は見逃さない。だから、ベテラン取調官はあえて被疑者を怒らせ、反応の変化を冷静に観察して真偽を確かめる。
一般社会でも、部下の掌握力がある上司は部下に対して意識的に激昂する。それからややあって態度を和ませ、部下を安堵させる。そうされた若い部下は、意のままに操られてしまう。
国会にも、ヒステリックに糾弾する野党議員がいるが、彼らもこのテクニックを駆使している。
ベテラン政治家などは、形勢不利になると激しく感情的に反撃する。しかし、本当は激昂しているふりの時間稼ぎで、その間に次の言葉を探っているだけだ。国会論戦や、今終盤に入った米国大統領選のディベートでも、そのようなシーンをよく目にする。
上手な嘘つきは、嘘を最後まで誤魔化そうとしない。弁明の策が行き詰まったらあっさり罪を認めて、刑罰が最小で済むように図る。相手が同情するような物語を作り上げたりするのがそうだ。犯罪ドラマのほとんどはそのように構成されている。子供の頃にいじめられたことや、身内が騙された不幸や、社会からの疎外感などにより、やもうえず犯罪に手を染めてしまった、などと同情に訴えかける。人権派弁護士はそのような物語を上手に作り上げ、刑を軽減させてしまう。
以上、犯罪について記したが、どれも普通に日常生活で起こっていることだ。相手が嘘をついていると分かっても、軽微なことなら騙されたふりをするのが大人の対応だ。些細な嘘を厳格に追求していると、世の中は生きづらくなってしまう。
嘘のない主張はシンプルだ。
説明がやたらと長い多弁な場合は、疑わしくて真偽がはっきりしないことが多い。
昔はよく、出版社や広告代理店に企画を持ち込んでいた。
成功した企画の説明はどれもとてもシンプルで、その場で即決された。長々と説明して成功した企画はほとんどない。
持ち込み企画で一番成功したのは絵本の「父は空 母は大地」だ。
作家寮美千子氏から、米国・シアトル首長からの手紙を訳したのでこれから朗読する、と電話があった。
彼女の朗読に私はとても感動した。
そのあとの雑談で、その翌日に彼女はパロル舎の編集長K氏と池袋で会うと話していた。
「いま思い浮かんだ画像を明日朝までに描きあげるから、売り込もう」
私は同席させるように強引に頼み込んだ。そして、徹夜で表紙の絵を描き上げた。
翌日、表紙の絵をK氏に見せると、その場で出版が決まった。
成功したのは長々とした説明がなかったからだ。
もし、長々とエコロジーや社会的意義を語っていたら出版はなかったと思っている。
そうやって30年前にパロル舎から出版された絵本「父は空 母は大地」はヒットして、私は絵描きとして何とか生活できるようになった。売れた背景に1995年の阪神淡路大震災とサリン事件があった。急速な都市化と、心の行き詰まりが震災と毒ガス事件を生んだ。そのような時代の空気に押されて「父は空 母は大地」はマスコミに注目され、NHKで動画化され、中学の教科書に採用された。
パロル舎版から26年後、ロクリン社から「父は空 母は大地」はリニューアルされた。
上画像はロクリン社版の最終場面。
上画像をクリックすると、パロル舎版を基にNHKが作った動画が再生される。
CG草創期の動画で今ほどの精緻さはないが、朗読とBGMは素晴らしい。
絵部分、オオワシ。
絵部分、野ウサギ。
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