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2023年1月31日 (火)

寒風吹き荒ぶ夜の散歩に自分の死をイメージした。2023年1月31日

Eテレのスイッチインタビュー・細野晴臣・小林信彦で、細野晴臣が、最近、歌謡曲や唱歌をよく聴いていると話していた。
YMOの一員として、世界の電子音楽に大きな影響を与えた人だ。
歌謡曲とか唱歌には無縁の人だと思っていたので驚いた。

私も歌謡曲と唱歌は大好きだ。最近はYouTubeでよく聴いている。石川さゆりの「天城越え」や唱歌の「故郷」が大好きだと人に話すと意外だと言われる。だから「自分の音楽センスは古臭いのか」と思っていたので、なんとなく安堵した。

仕事の資料として必要なので、昭和28年小津監督「東京物語」を見た。
それは今まで幾度も観た映画だ。国際的な評価も高く、海外の巨匠たちも大きな影響を受けている。
前回見た20年ほど前の印象と、今回はかなり違っていた。
笠智衆演じる平山周吉は私よりずっと若いのに、老人老人していた。
戦死した次男の妻、原節子演じる紀子は実に気品があって、目を見張るほどだった。紀子が一人暮らしているアパートは、原宿に残っている同潤会アパートにそっくりだ。間取りは狭く台所などは共同だった。
周吉の長男は博士号を持つ優秀な医師だが、東京場末の粗末な民家で小さな内科医院を営んでいた。まだ、健康保険制度がなく、医師がさほど豊ではない時代だ。ちなみに友人の父親は満州医大の教授で、長春にあった自宅は、水洗トイレ、暖冷房、ダイヤル式電話つきの近代的な家だった。だから、敗戦後、内地に引き揚げてきた時、粗末な日本の住宅に落胆したと、友人は話していた。

日本が戦前の生活水準に戻るのは、この7年後だ。
だから、画面の昭和28年の生活感には零落した日本を感じる。
しかし、登場人物たちの立ち振る舞いや話す言葉に、今は失われた日本の品格を圧倒的に感じた。

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  昨日の夕暮れ。
極寒の北西風が吹き荒れていた。

その後、澄み切った夜空に上弦の月が浮かんだ。上弦があれば下弦の月がありそうだが、その表現を使うことはない。なぜなら、下弦の月は日中にしか現れないからだ。

夜の土手道は痛いほどの寒風だった。
土手脇のマンション最上階に白熱灯に照らされた部屋が見えた。その部屋の住人が起きていると安らぎを感じる。カーテンはいつも開いていて、趣味の良い調度品が見え、古風な天井ファンがゆったりと回っている。カーテンを閉めないのは、住人が荒川の眺望をこよなく愛しているからだろう。

荒川土手は深夜でもジョキングをしている人がいる。そこには暗黙のルールがあって、すれ違うときは互いに離れるようにして威圧感を与えないようにする。今まで経験したことはないが、もし、暗闇で近づいて来る人がいたら危険を感じて身構えるだろう。

夜道を歩いていると、時折、心の中で母が語りかけてくる。
昨夜は「いくつになったの」と母は聞いた。
78だと答えると「そんなに年取ったの」と驚いた。

「もし、今も母ちゃんが生きているなら、110歳だよ」
「いやだいやだ。そんな自分は想像したくもない」
「ちょうどいい歳で死んだよ。死顔もやつれていなくて良かったし」
そう言うと「自分の死顔は見れないから、残念」と明るく笑っていた。

しかし、近未来なら自分の死顔が見ることができる。
現在、脳に電極を埋めて、意識をコンピューターと同期させる研究がされている。
多分、12年後あたりのシンギュラリティ・技術的特異点に達したころには実現しているかもしれない。

同期するとは、コンピューターが自分と同じ意思を持つことだ。
だから、自分が死んだ時、コンピーターに複製された自分は視覚センサーで、オリジナルの自分の死体を見ることができる。
AIに記録された記憶と意思を、若く健康な自分のクローンに移転させれば、生き返ったことになる。
生きていることとは意識が途切れず、連続して意識することだ。
だから、眠りとか全身麻酔などは、死と極めて似ている状態だ。

「人の死は認識できる。しかし、自分の死は認識できないので、自分の死は存在しない」
解剖学者・養老孟司さんの有名な言葉だ。

私が想像する自分の死は、映写フイルムが焼き切れた瞬間に似ている。
昔の映写機は光源が高熱のアーク光で、フイルムは燃えやすいニトロセルロース(セルロイド)だった。
上映中、フイルムが焼き切れることがしばしばあった。その時、フイルムが回転する音がバシャバシャと場内に響き、スクリーン画像に眩しい穴が空きに、全面白くなって画面は消えた。生きていれば、その後があるが、自分が死ねば脳活動の全てが止まる。だからそれで、世界も宇宙も全てが消えてしまう。

元気な自分だけを認識し続けられるのなら幸せだ。しかし、残念なことに、老いは日々弱って行く自分を感じることだ。
通常は上下に波打ちながら歳をとって行く。
その速さは個人差がある。
末期癌なら、日々、猛スピードで衰弱して行く自分を意識する。
筋ジストロフィーなら、日に日に筋力が弱っていき、最後は目を動かすことも、肺呼吸をすることもできなくなって死を迎える。

養老さんの言葉に従えば、死を予感する必要はない。今日より明日はもっと辛くなるなど考える必要もない。ニャンコやワンコのように今だけを感じて生きればいい。

人生の初期には、日々、自分が成長し充実して行く時期がある。誰もがその日々を眩しく振り返る。
猛烈に働いて、成功する人がいる。彼らの行動は、青年期までの輝きを再現させたいのかもしれない。しかしそれは、青春とは似ても似つかない醜悪なものだ。

夜の散歩の帰り、真っ暗な荒川河川敷から「ギャピー、ギャピー」と不思議な鳴き声が聞こえた。ここは都心に近いのに人工の灯りは皆無で、魑魅魍魎が跋扈している。しかし、この闇は大好きだ。

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