遅れていた仕事の納品に丸の内へ出かけた。ステンドグラスの思い出。2023年8月8日
東京駅。カメラを持っていなかったので、半年前の夜景を使った。
遅れていた仕事を昨日やっと納品できた。
場所は丸の内。広い行幸通りの先に広大な皇居の森。
何度訪れても"素晴らしい"の一言に尽きる。
人通りは少ない。通行人の半分以上は海外観光客。
みんな、のんびりした良い表情をしている。
「日本にいると緊張感が薄れる」
ニュース番組のインタビューで観光客が答えていたが、お世辞ではないようだ。
厳しい暑さは、ビルに飛び込みながら歩けば快適に移動できる。
作品を納品した後「近くで食事でもしませんか」とお客さんに誘われたが固辞した。
昨夜は徹夜で仕事を仕上げたので、早く帰宅して休みたかった。
電車に乗る前に、現金がなくなっていたのでATMを探した。
丸ビルの外に女性警備員がいたので聞いた。
「すぐそこですので、ご案内します」
彼女は笑顔で応えた。
若くて可愛くて、制服が凛として似合っている。
「婦警の方ですか」聞くと
「制服が似ていますので、皆様に間違えられます。
丸ビルを委託された警備会社の者です」
彼女は笑顔でハキハキと応えた。
階段を降りた地下通路にATMがあった。
彼女は笑顔で、帰りのエレベーターの位置まで教えてくれた。
これが海外観光客に評価される「日本水準のおもてなしか」と感動した。
このところ仕事ばかりしていて、赤羽周辺に閉じこもってきたが、
足を伸ばすと小さな旅行をした気分を味わえた。
「ステンドグラス」近所にステンドグラス作りが大好きな方がいた。
「下描きすれば、その通り作ってあげる」とのことで、これを作ってもらった。
それから長年、このステンドグラスは窓ガラスに立てかけて楽しんでいる。
絵描きは様々な職種の方と付き合うことが多い。
30年以上昔、出版社からの依頼で、裏稼業の方に会ったことがある。話をしながら彼の雰囲気をスケッチして、説明書きを添え納品した。
それをきっかけに、時々彼から飲みに誘われた。
彼には、美しいお嬢さんがいて、その頃、名門大に入学した。
「一人娘のために、こんなバカな仕事からは足を洗いたい」
ある時、彼はポツリと話した。
それから彼と会うことはなくなったが、
数年後、突然連絡が入って会うことになった。
「驚くなよ。おれアーティストになったんだ」
話を聞くと、それはステンドグラス作りだった。
週刊誌の広告にあったので、入会費30万と材料費を払って、彼はその工房に通い始めた。
渡されたのは黒線がプリントされたガラス板。
それを塗り絵みたいにエナメル塗料で彩色するだけだ。
彼はそれを1日で仕上げ、翌日、工房へ持っていくと、毎回5万ほどで買い上げてくれた。
「ボロい仕事だろ。お前もやってみなよ。口きいてやるぞ」
彼は楽しそうに話していた。
その仕組みはよくわかっていた。
仕上げて持っていくと、色ムラがあるなどと難癖をつけて買い上げを拒否して、入会費と材料費を騙し取る詐欺だ。
しかし彼は、分かる人には分かる本物の危ない人だった
「人の仕事の邪魔したら、だめだよ」
そのカラクリを話すと、彼は納得していた。
その後、彼はバブル不動産の塩漬け物件でぼろ儲けしたと噂に聞いた。
それから色々あって、10年近く前に彼はガンで亡くなった。
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