「宇都宮線の女」を描いたわけ。2023年10月19日
「宇都宮線の女」
睡眠導入剤 を処方してもらうために医院へ行った。
いつものように女医さんと会話した。
「人と話しすぎると、いつも自己嫌悪に陥ります」
先日、美術館で講演した後の最低の気分を話した。
「それは私も同じですよ。
酔って楽しくなって話し過ぎると、帰り道で自分が嫌になります」
女医さんも同じだと話してくれて安堵した。
夕暮れ、処方された「マイスリー」一月分をもらうため薬局に寄った。
50代半ばの女性が待っていた。
すぐに彼女に薬が渡された。
「一ヶ月分では足りない、これから大学病院で手術して入院期間が長くなるのでもっとほしい」
彼女は無茶を言っていた。
担当医としては入院するから余分は必要ないと考えたのだろう。
彼女は納得しなかった。
おなじことを延々と繰り返している。
そのおかげで、20分ほど私の処方は遅れてしまった。
外は暗くなり始めた。
埼京線で隣の赤羽へ行き、東京駅へ行くつもりで宇都宮線に乗った。
すると上野止まりだった。
乗客が数人だったので、全員下車しても気づかなかったようだ。
長い停車だと思っていると、5分後に引き返し始めてやっと気づいた。
「東京駅へは行くな」との啓示だと思った。
だから尾久駅で下車して、後続の上りに乗り換えるのはやめた。
薬局で時間がかかっている時、今日は運が悪いと思っていた。
上野から小太りの女性が乗ってきて、私の前に腰掛けた。
すぐに、袋から大きな中華マンを出して美味しそうに食べ始めた。
6時前だが外はすっかり暗くなった。
彼女は中華マンとお茶以外何も持っていない。
通勤ではなく遊びでもない。
ちょっとした用事で東京へ来て、宇都宮あたりに戻る感じだった。彼女の素朴な雰囲気の背後に、古い街並みが思い浮かんだ。
赤羽に着く頃には彼女は爆睡していた。
私は赤羽で下車して、駅構内の本屋の喫茶室に入った。テーブルは広く、照明が明るくて絵が描きやすい。この絵を1時間ほどで描き上げ、赤羽駅外へ出た。
高架下のスーパーで身欠きニシン12枚と日高昆布を計2000円ほどで買った。
ニシンはしっかりと酒で洗って臭みを取る。
それを醤油と味醂で甘辛く煮込み、七味唐辛子をふったのが大好きだ。
結局今日も絵が1枚増えた。悪い日ではないと思った。
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