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2024年5月15日 (水)

ベルの不等式の破れが実証されてから、その不可解な世界に安らぎを覚える。2024年5月15日

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古い自動販売機と小さな足元灯の物語と量子物理学の不思議な関係。
AIも半導体も、私たちが生きて生活していることも、この世界があるのも、この難解な物理学なしでは成り立たない。

量子力学ほど難解で理解し難いなものはない。
しかし、この量子力学にスマホもコンピューターも自動車も飛行機も食物生産も、現代産業はどっぷりと依存して莫大な富を生み出している。
だから、難解だと敬遠せず、興味を持って欲しい。

夜の荒川土手の散歩道から、アパート敷地に設置された古い自動販売機が見える。それはキラキラと点滅して美しい。
自動販売機の前には可愛い小さな足元灯がある。

古い自動販売機は深夜になると、小さな足元灯に昔話しを始める。
今は無くなった電話ボックスを利用していたアパートの老夫婦の思い出。
自動販売機から飲み物を買って、そばのベンチで語り明かしていた若い二人の思い出。
自動販売機が工場から出荷されて設置された晴々しい日の思い出。
小さな足元灯はいつも、自動販売機の思い出を楽しそうに聞いていた。

ある日の夜、自動販売機は怖い話をした。
「この世界はここから見える範囲だけだ。
その先には何もない無が広がっているんだぞ」
それを聞いた足元灯は不安になって、ブルブルふるえた。

ある日の朝、突然、古い自動販売機は新しい自販機に取り替えられた。
電源が切られてトラックに積まれると同時に、自動販売機の世界は消えてしまった。そして、小さな足元灯はただの無機質な灯りに変わってしまった。

この物語は量子力学に当てはまる。
物語の世界は古い自動販売機があったから存在していた。
しかし彼の電源が切られた瞬間に、物語の世界は消えてしまった。

2022年のノーベル物理学賞は「ベルの不等式の破れ」を実験で証明したアラン・アスペ、ジョン・F・クラウザー、アントン・ツァイリンガーの三氏に贈られた。
三氏の実験では、ものは確率的に存在するだけで、誰も見ていない時は実在していないと証明した。
それは従来の常識を破壊する、とんでもない証明だった。

「神はサイコロを振らない。
月は観測していない時は存在しないとでも言うのか」
かって、アインシュタインは量子物理学者たちに反論した。

アインシュタインが反論したのは、彼は紙と鉛筆だけでできる理論物理学の人だったからだ。
ベルの不等式を破るには、高度な科学技術による実証実験しか方法はなかった。それで、実証に時間がかかってしまった。

湯川秀樹博士あたりまでの理論物理学は、紙と鉛筆だけで成立した。
だから、物資不足の上に世界から孤立していた戦時中の日本でも、研究を続けることができた。
そして戦後、日本から物理学のノーベル賞受賞者が輩出した。

2022年のノーベル賞三氏は「ベルの不等式の破れ」を実証した。
そして「月は見ていない時は存在しない」と証明してしまった。
ちなみに顕微鏡で観測できるサイズまで、今は実証されている。

月は巨大で、無数の量子の相互作用で存在している。
私が見上げなくても、消えることはないだろうと何となく思っている。
しかし、完全に実在している訳ではないようだ。

風景は全てハリボテのように表面だけが実在して、その下はぼんやりと不確定なのだろう。
だから私が眺めている人も物も風景も星空も全て、
「ベルの不等式の破れ」が証明された以上、
表面しか実在していないことになる。

「ベルの不等式の破れ」
この言葉はニヒルで格好いい。
意味は分っていないが、会話の中で相手を煙にまくために是非使ってみたい。

世界は私が見ているから存在する。
脳科学の自意識による直感とは違う物理学上の意味でだが、
私がいなければ、私が思い描いている世界は本当は存在しない。

二重スリット実験でも、量子は観察していると粒子として実在する。
しかし、観察していない量子は波であり、ぼんやりとして不確定だ。
さほどに存在は危うくて脆い。
その破天荒な論理には、なぜか不思議な安らぎがある。

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